第5回 生活安全保障セミナー
安全で健康な生活を守るために
一生活に影響を及ぼす微量科学物質の検出−
1.活性酸素の検出:一重項酸素について
  日本女子大学 理学部 物質生物科学科 教授 小尾 欣一
2.生活に関連する化学物質の測定とセンサー開発
慶応義塾大学 理工学研究科総合デザイン工学専攻 教授 鈴木 孝治
 活性酸素とは、生体内で生成された酸素原子を含む酸化作用の強い化合物であり、最近話題を集めている物質である。
一般には生体に対し悪い影響をおよぼすが、良い効果をもたらすこともある。
悪い影響としては、がん、心臓病、脳卒中、糖尿病、白内障、痴呆症、肝炎など感染症以外の病気の9割に関与し、老化(抗酸化能力の低下)を引き起こしているといわれている。
一方、免疫機能、殺菌、解毒、抗がんなどの機能を持ち、体内で善玉としても働いている。

 活性酸素の定義は、狭義ではスーパーオキシドイオン(O
2-)、ヒドロキシルラジカル(OH)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)をさし、広義ではヒドロペルオキシラジカル(HOO)、アルコキシルラジカル(RO)、アルコペルオキシラジカル(ROO)、一酸化窒素(NO)、ペルオキシナイトライト(ONOO-)、脂質ヒドロペルオキシド(ROOH)、次亜塩素酸(HOCl)、オゾン(O3)を含む。ここでは狭義の活性酸素の特質について触れる。

 スーパーオキシドイオンはさまざまな反応を起こし、生体内でH
2O2、OHなどの前駆体として働き、殺菌物質としての作用も持つ。
中性水溶液中で寿命はミリ秒のオーダーである。
ヒドロキシルラジカルは生体内ではO
2-やH2O2を前駆体として発生し、がん、生活習慣病、老化の引き金となる率が高い。
寿命はマイクロ秒のオーダーと短く、水溶液中で寿命内に移動できる距離は10〜20μm程度と短い。
過酸化水素は生体内では主にO
2-から生成するが(O2-+2H++e-→H2O2)、酵素系での酸素分子の2電子還元でも生成する(O2+A+2H+→H2O2+A2+:A2+:は基質)。
活性酸素の中では酸化力が弱い。
一重項酸素は通常の酸素分子の励起状態であり、エネルギーの低いa
1Δg状態とそれより高いエネルギーを持つb1Σu-状態がある。
活性酸素として生体内で悪い役を演ずるのは、反応する相手や脱活性剤が存在しないと1時間以上と寿命が長い前者である。
生体内においては色素光増感反応で生成されるが、その機作については解明されていないことが多い。
また、検出法としては発光法などがあるが、必ずしも使いやすいものではない。
演者らは時間分解電子スピン共鳴法を用いて、フリーラジカルの存在下で励起一重項分子が発生するとラジカルに異常なスピン分極が発生することを見出した。
これをa
1Δg状態酸素に適用し、アントラセン光増感で生成したa1Δg状態酸素の検出に成功した。
また、a
1Δg状態はβ-カロテンが存在すると一重項酸素が脱励起されることを確認し、その反応速度定数を求めた。
この手法はa
1Δg状態酸素の新しい検出法である。