骨折から知る医療診断機器の世界 ― X線・CT・超音波・免疫分析

私事ですが、足首を骨折してしまい、しばらく病院にお世話になっていました。私は3年生向けの講義で機器分析を教えており、病院で検査に使用される装置も授業で取り上げています。今回、これらの装置のいくつかを自分の身を通して体験することになりました。
まず、骨折しているかどうかは外からは見えません。体内の骨の様子を確認するためには、電磁波の一種であるX線を使用します。病院では「レントゲン撮影」と呼ばれています。X線は可視光や紫外線よりも波長が短く、物質を透過しやすい性質を持っています。生体組織の中で骨は密度が高いため、皮膚や筋肉に比べてX線が透過しにくく、透過したX線の強弱を画像化することで、皮膚や筋肉の中にある骨の形が影絵のように見えてきます。さらに詳細な様子を確認するためには、X線CT(コンピュータ断層撮影)を使用しました。これは、様々な方向からX線を照射し、透過したX線の差をコンピュータで解析して画像を組み立てることで、輪切りの断面画像や立体的な画像を得ることができます。このような撮影によって、私の骨折した部分もはっきりと確認することができました。
さて、足を骨折すると、しばらく動けません。長時間同じ姿勢でいると血栓ができやすいため、血栓の有無を調べる超音波(エコー)検査が行われました。検査では、足にゼリーを塗り、超音波プローブを当て、生体組織から跳ね返った超音波を画像化して血液の流れを確認します。超音波検査の中には、ドップラー効果(救急車が近づくとサイレンの音が高く、遠ざかると低く聞こえる現象をご存じかと思います)を利用し、近づく血球と遠ざかる血球の動きを解析して血流を調べる検査もありました。これらの超音波検査は専門の検査室で行われましたが、ハンディタイプの超音波装置もあり、病室で看護師さんが日常的に使用していました。トイレに行った後の患者のおなかに当てて、膀胱に尿が残っていないか確認することができます。ハンディタイプの装置は体温計のように手軽に使えるため、応用範囲が広がった例といえます。
ここまでは物理的な話をしてきましたが、生物系の分析として、抗原抗体反応を原理とする検査(免疫分析)もありました。骨折すると体内で炎症反応が起こりますが、血液中に含まれるCRP(C反応性タンパク質)の量を調べることで炎症の程度を判断できます。このCRPの量を測定する検査が免疫分析です。免疫分析の原理を簡単に説明すると、抗体というタンパク質を利用して特定の物質を検出する方法です。新型コロナウイルスの検査でも、抗原検査キットとして広く使われていました。抗体は体の中では病原体などを除くために活躍しているタンパク質ですが、その物質を見分ける高い能力を分析に利用します。抗体は異物に特異的に結合する性質を持っているため、CRPに結合する抗体を用意すれば、血液という複雑な混合物の中からCRPだけを検出することができます。私の場合も、定期的に血液検査を受け、CRPの値が正常範囲であることを確認していました。
最後に、今回紹介したX線と免疫分析はいずれもノーベル賞に関連しています。ヴィルヘルム・レントゲンは、1901年に「X線の発見」の功績で第1回ノーベル物理学賞を受賞しました。X線は1895年11月にレントゲンによって発見され、わずか数週間後には医学的応用が始まり、世界中で急速に普及しました。その後、1979年にはゴッドフリー・ハウンズフィールドとアラン・コーマックが「コンピューターを用いたX線断層撮影技術の開発」の功績によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。免疫分析については、ロサリン・サスマン・ヤローが「ペプチドホルモンの放射免疫学的測定法の開発」の業績で1977年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。どの技術も「見えないものを見える化」することで、診断や治療の精度を飛躍的に高め、患者の予後改善に大きく貢献しています。


