「ホモロジーと位相幾何」では図形の特徴を表すホモロジー群というものを学びます。大雑把に言うと、図形の穴の数を数えます。下の図形は4つの頂点 v, w, x, y と5つの辺 e, f, g, h, k と1つの三角形の面 r からできています。辺たちには向きが付いていて、矢印で表されています。右下の図の太線は面 r の縁(ふち)を時計回りに一周する輪っかです。この輪は e-f+k という式で表すことができます。f を通る部分は左下の図の向きと逆ですから、マイナス符号を付けておきます。このように、向きの付いた輪っか(たちの和)を 1-cycle(1-サイクル)と呼び、辺たちを足したり引いたりして表します。三角形 xwy を反時計回りに一周する輪は g+k+h と表すことができます。この 1-cycle は図形の穴を囲みます。
全ての 1-cycle たちからなる集合は加群になっていて、1-cycle group(1-サイクル群)と呼ばれます。しかし、それは図形の特徴をよく表しているとは言えません。上の図の 1-cycle e-f+k は面 r の縁になっていて、図形の穴を表していません。そこで、1-cycle group の中で面の縁になっている 1-cycle たちを 0 とみなして得られる新しい群を考えて、1-dimensional homology(1次元ホモロジー群)と呼びます。この世界では、四角形 xwvy を一周する g+f-e+h と三角形 xwy を一周する g+k+h は同じ穴を囲むので、homologous(ホモロガス)であると言い、同じ輪っかであるとみなします。数式では g+f-e+h = g+0+f-e+h = g+(k-k)+f-e+h = (g+k+h)-(e-f+k) 〜 (g+k+h)-0 = g+k+h と計算できます。途中で r の縁の輪 e-f+k を 0 とみなして計算しています。そこは等号 = でなく、記号〜を用います。
1-dimensional homology は図形のみによって決まり、図形の分割方法によって変わることがないことが証明されています。つまり、どこを頂点とみなして、どこを辺とみなすかということに影響されません。例えば、上の図の頂点 v を無くして、辺 e-f を一つの辺 m とみなすと下の図の分割が得られます。でも、1次元ホモロジー群は群としては変化しないのです。だから、1次元ホモロジー群を見ると、分割によらない図形本来の特徴、穴の数などが分かります。
「曲面と位相幾何」の授業ではオイラー標数を用いて2次元曲面を分類します。ところが、2次元曲面をもう1次元高くした3次元多様体はオイラー標数では分類できません。例えば、表面の無い3次元多様体は2次元曲面で言えば球面やトーラスなどのように縁の無いものに対応します。しかし、表面の無い3次元多様体たちのオイラー標数は全て 0 なので、オイラー標数はそれらを全く区別できません。3次元多様体の全体像は目に見えませんが、ホモロジー群を計算すると、ある程度図形の特徴が分かります。また、2つの3次元多様体が与えられたとき、多くの場合はそれらのホモロジー群が異なり、同相でない3次元多様体たちであることが分かります。しかし、ホモロジー群だけでは3次元多様体は完全に区別しきれません。実は、3次元多様体の分類はいまだ人類の成し遂げていない未解決の大問題なのです。
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