「あきこさん、お待たせしちゃってごめんなさいね!」
「いいえ、ちょうど今来たところですわ」
「へへへ、あきこさんってば優しいんだから」
「本当にそんなことないの。それよりなつこさん、あなた今年はずいぶん泣き虫さんでいらしたのね。梅の雨が長かったじゃない」
「あら、だってだって。今年は大きなお祭りが開かれる予定でしたのに、いけないって言うから悲しくて悲しくて」
「そうね、四人の中でもあなただけが、五つの輪を背負うのですものね」
「ふゆこねえさまが背負うときもありましたが、やはり今年の五輪はわたくしの本番でしたから、わたくし張り切っていたのに……今年はみなさま活気がなくて、なんだかわたしらしくないわ」
「あらあら、また涙がぽろぽろ。雨が降ってしまいましてよ。流行りの病など、いつものことでしょう。そのうち過ぎ去るものよ、お待ちなさいな」
「そうなのだけれど……。あきこさんは大人でずるいわ。わたし、いつまでもこどもだから」
「確かに少しお転婆ですけれども、わたくしは、あなたの鮮烈さを素敵に思いますわよ。生と死の強烈で輝かしい温度は魅力でしてよ」
「こどもっぽいだけよ。あきこさんは大人っぽくてドラマティックでいらっしゃいますわ。憧れるものだけれど」
「ふふふ、ありがとう。わたくしは豊かなのにもの悲しくて、満ちているのに切ないの。緑の葉を赤に燃やして、木枯しが巻き上げる。天高く月光る。センチメンタルですわね。あなたにはまだ難しいかしら」
「もう、そうやってたまに意地悪をおっしゃるのだから! さぁ、そろそろお話もやめて、帰らないといけませんわ。あとをお任せしますわね! さようなら!」
「ええ、左様なら」
「わたくし、あなたが去り際に寂しくないように雨風雷を伴って騒がしく帰っていくのも、嫌いではないのよ」