智恵子は東京に空がないと言ふ、
ほんとの空が見たいと言ふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。
こんばんは!さとです。
上の詩は「智恵子抄」の中の「あどけない話」という詩です。私は今回、サークルの合宿でこの安達太良山に登ってきました!
安達太良山は登山サークルに入って以来、絶対に登ると心に誓った山だったので感無量でした…。と言うのも、ガチノボラーである私の母が50回は登ったという伝説を語っていたからです。日本の国土の八割は山です。なのにどうしてそこばかり行きたくなるのか。それはやはり美しいからに違いない!そう思い、執行学年になったのをいいことに、合宿委員になって安達太良山の企画を立てたのです。
安達太良山は標高1699.6m、福島県郡山市にある山で、日本百名山にも数えられています。万葉集にも詠まれている、昔から文学と縁のある山です。今回は沼ノ平という、地図に「噴火口あり、毒ガス注意」と書かれている、広大な硫黄の平野を臨むスリリングなコースを登りました。実際に何人もここで死んでいるそうです。
荒々しい自然を目の当たりにする一方、安達太良山は緑豊かで、そのコントラストがえもいわれず美しかったです…。森林限界を超えると松も苔のようにこんもりして、時代が違うんじゃないかと思うような植物がたくさんありました。そんな草原を進んでいると、まるでファンタジーの世界を旅しているような気分にひたれます。自分ではない誰かになって、ここではない世界を冒険している…日本にいながらこんな体験をできるのは夏山ならではだと思います。
沼ノ平の雄大な景色がどんどん小さくなって、空に近づいていくと、雲が真横から迫ってきました。流れの速い風に乗って、あっという間に飲み込みます。普段は見上げているだけで分からないけれど、雲の中ってひんやりしていて吹き飛ばされそうになるんです。前も白くかすんで少し不安になるのですが、私はその感覚が逆に好きです。ちゃんと山頂に着けるのか、このまま進んで大丈夫なのか…そんなことを考えながらひたすら登っていくと、突然パッと雲が晴れて、山頂に続く尾根に出ました。
そこはまた現実離れした所で、硫黄と鉄に染まった道が続いていました。
そしてついに登頂!!
私は真っ先に一番高い岩の上に登り、空を見上げました。
「これ、ほんとの空だ…」
智恵子が見たほんとの空は、本当にほんとの空でした。
なるほど私が東京で見る空とはまるで違う。
予想以上の大縦走に疲れ果て、誰もいないスキー場の草原で眠りこけていた時に見たさかさまの空が特にきれいでした。
地球って丸いんだな、と分かるくらい広い空でした。智恵子もこうして毎日ほんとの空を見ていたのでしょうか。うらやましい限りです。