ランドセルを背負う老人のはなし

こんばんは。お久しぶりのむーです。

最近とってもぽかぽかしてますよね。お天気にも恵まれて、サークルの色塗りの作業が大変はかどってありがたい限りです。そんなこんなな日々を送っていたらおしゃれ着をペンキで汚してしまいました。しかも赤。何がまずいって血みたいに見える。根性で落とします。

さてさて、今日はとっても貴重な経験をしてまいりまして、そのお話をばと思っております。

能楽師の方と、同じ机を囲み、能についてのお話を伺ってきたのです!!!!

来る3月3日、国立能楽堂にて、粟谷明生先生主催第102回『粟谷能の会』が上演されます。その観劇に当たり、我々日本女子大学の学生を対象に、粟谷先生ご本人が事前講座を開いてくださったのです。この講座、毎年恒例らしく、我らがアドバイザーの先生と粟谷先生が「いつからやっているんだっけ」と言葉を交わされると、院生の先輩が3年前も同じ会話をされていました、とお二人に仰っていました。いつからなんだ……

今回の講座の内容はおおまかに二つ。面についてと、今回上演される『木賊』についてです。

まずは面。能の最大の特徴とも言える面について、その意義や装着の仕方、どのような角度が良しとされるか、などなど演者としての視点、能の専門家としての視点から様々なお話を伺い、一層仮面劇としての能への関心が深まりました。その上何と今回は、先生がご自身の面を4つお持ちくださり、実際につけていただくことも出来たのです……!

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↑「中将」の面。大のモテ男、在原業平の顔をイメージして造形されたものだそうです。眉間にしわが寄っているのは、困っているから。一体何に困っているのか、女性にもてすぎて困っているのだそうです。💢💢💢

 

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↑美しい高貴な女性の面、『増女』。バイト帰りに講座に来たブログ部のしおりちゃん、スーツ姿で能面……

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一同「バリキャリじゃん」。中世の“強い”女がここに、という感じでした、違和感のなさたるや……髪をひとつにくくった増女もまた素敵だなと素人心に思いましたが、正式には髪を下ろし、能面に描かれた髪の生え際と合わせることで、面と顔を馴染ませるのだそうです。

 

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↑美しい少年、『童子』。経年や素材によるものとは存じますが、他の面より濃いその色に健康的な日焼けを思わされました。面の難しいのは、少しの傾きで表情が付きすぎてしまうこと。斜めに首をかしげるなどすれば、間が抜けたように感じられてしまう。能の世界でそれは良しとされないのです。姿勢を正し、背中から垂直に、横を見るときは顔を地面と平行に動かすことが求められるのだそう。

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最後、『小尉』。今回の『粟谷能の会』にて上演される『木賊』で先生が実際につけられる面です。『木賊』はその難易度から上演される機会がほとんどなく、アドバイザーの先生からも「レア」と繰り返し伺ってまいりました。

子を愛する父親と、父親に黙って突然出家してしまった子。幾年か幾十年か経った頃、子が師匠のお坊さんと共に父の様子を尋ねに行くと、父の従者から忠告を受ける。「あの爺さんは客人が来るといつもおかしなことをするから気をつけろ」。老いた父は、訪ねてきたのが自分の子供だと気がつかないまま、まだ幼かったころの我が子の装束を身にまとって、客人の前に姿を現す――

先生が演じられるのは、その父親。子供の装束を身にまとう、というのは現代の感覚に置き換えるなら、「小学生の黄色い帽子とランドセルを背負う」と同義だそう。うわああああ。

先生は、「自分の父親だと思ってみてごらん」とおっしゃっていました。老いた私の父が、私を恋しく思って、私のランドセルを背負う……? そう思うとなんとなく冷めた気持ちになってしまって、いやもし私が急にいなくなったとして父はそのような行動はとらないだろうと思うのですが、親の心子知らずという言葉を実感したような気がしました。子を恋しく思う老人の、なんと滑稽で、なんと悲しいことでしょう。観るのが本当に楽しみです。

チケットはまだ売りとめにはなっていないようです。お時間があればぜひ、貴重なこの曲と出会いに、国立能楽堂へ足を運んでみてはいかがでしょう。

さてさてこの事前講義、以前は装束についてやかつらについての講座もあったそう。それも実技付き。すてき……!「ぜひリピーターになってね」と言われてしまったので、これは来年も参加させていただくしかありません。とても貴重な経験ができました。この場をお借りしまして、粟谷先生、本日は本当にありがとうございました。

それではまた!むーでした。