二十歳

先日、二十歳になりました。

私は小さい頃、大人になったら心は変わって、今のものではなくなると思っていました。

でも違った。
特に、私の心は変わっていなかった。
成長はしたけれど、根本は変わらない。
昔、上を見て「大人だな」と思っていた人たちも、実は大人に見えるだけだったのかもしれない、と思うことが最近あります。

私は、小学生のころ、早く二十歳になりたいと思っていました。漠然とした憧れがありました。
今、小学生に戻りたいとは思わないけれど、その時の私に言いたい。

憧れるほど、私の心は大人になっていないって!

 

さて、二十歳になるにあたって、私はとてもドキドキ?ちょっぴり楽しみなことがありました。
それは、昔、母が書いてくれた手紙を開けることです。
実はこれは、二、三年前にたまたまアルバムを整理していたら、宛名も何も書いていない手紙があり、開けてみたら一行目に「二十歳になったれいへ」とあり、慌ててしまったものなのです。
母は、もう書いたことさえ忘れていて、またアルバムにはさんだら絶対に二十歳の時に忘れて開けられない、と思ったので、私の机に引き出しに大切にしておきました。

開けてみると、母がこの手紙を書いたのは、1999年12月だということが分かりました(生後4か月とあったので)
それを伝えると、母はさっぱり思い出せないと。本当に書いたことを忘れていたらしいです。

私は、十九歳と二十歳は、大きく違うと感じています。たとえそれが、ある日には十九歳で、次の日には二十歳になる、そのたった一日の違いでも。二十歳になると「成人」になり、法律で認められて許されることが多くなる一方でそれは自分で自分のことを律しなければならないことでもあります。
また、いよいよ将来について今後どのように生きていくか考えなければならない年にもなります。

 

「自分の信じた道を歩いて下さい。」
母からの手紙にあった一節です。一年後、十年後、先のことを考えると、すごく不安になって、空回りしそうになります。そして、未来の夢に向かって着々と歩を進める友人を見ていると、なぜ私はいつまでも足踏みしているのかと焦ります。
でもこれを読んだときに、少し、自分に自信を持てたように思いました。そして、素直に「こうなりたいな」と考える自分の姿を、純粋に描き出せるような、そんな気持ちになりました。

地球や、自然の摂理から比べると、二十年は、ほんの一瞬なのかもしれない。でも、私たちは決して過去の自分にも、そして今この瞬間の自分にも、戻ることができない。常に、未来へと進むしかないのです。でも、こうして二十年前の母から手紙をもらい、時を超えて、母から大切なものを受け取ることができました。
この二十年、色々な事があったし、今後もたくさんの経験をすると思うけれど、ここまで育ててきてくれた母には、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとう。

 

そしてやっと夏休みに入り、本をゆっくり読む時間ができました。記念すべき今夏1冊目は、

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佐々木丸美さんの『雪の断章』です。佐々木さんは、五十六歳の若さで鬼籍に入られていますが、この『雪の断章』は処女作になります。簡単にあらすじを説明すると、孤児の飛鳥という女の子がお金持ちの家に引き取られるのですが、お手伝いさん同然(それ以下?)に扱われ虐められて、家を飛び出したところで、運命の男性と出会うっていう、いわゆる「シンデレラストーリー」的なお話です。
これだけいうと好き嫌いが分かれそうですが、なりよりも佐々木さんの詩的な表現、場面展開が秀逸で、孤児という枠にとらわれずに、少女の心の屈折を描いているところに私は共感し、感動しました。特に、この運命の男性(飛鳥から見るとお兄さんのような存在になるのですが)祐也さんに出会う場面の最初、唐突に
「偶然の神秘というものを信じている」
の一言から始まるところで、衝撃を受けました。これで、物語全体の全てを表現しているような、「偶然の神秘」ってすなわち「運命」のことなのですが、飛鳥の生きる時間と祐也さんの生きる時間がぴったりと重なることの予感と、その空気が、ここまで伝わってくるように思います。
タイトルに「雪」とあるように、北海道のお話で「雪」が飛鳥の心を表現する助けになっているのですが、「雪」がこのお話を幻想的で美しく、また寂しく悲しいものに仕上げていて、ある意味で少し観念的なでも現実とは離れていない綺麗な作品に仕上げているのだと感じます。

なお佐々木さんは生涯でたった十八作品しか書いておらず、作家活動も数年しかなかったために、一時期は廃刊になっていたようですが、復刊運動が高まり、今は「ブッキング単行本」「(東京創元社)創元推理文庫」で復刊されているようです。わたしは、ブックオフで創元推理文庫のものをたまたま見つけたのですが、ブッキング単行本には、佐々木さん自身のあとがきがあるようで、こちらも手に入れたくなってきました。
そしてファンサイト(ご家族公認のようです)によると、この十八作品すべてがなにかしら繋がっているみたいです。登場人物相関図を作る人もいるとか…。とりあえずまずは、二作目の『崖の館』を読みたいです。そして北海道で『雪の断章』聖地巡礼をしたいです。特に、飛鳥と祐也さんが出会う、札幌の大通り公園三丁目のベンチには、絶対行ってみたい。雪は積もっているのだけれど、やんでなければならないのです(条件が難しい)。1975年の作品、せっかくだからその場所をフィルムカメラで写真を撮りたいです。夢が広がる。

主人公飛鳥は、屈折を持った素直でない女の子です。引き取られた家を飛び出し見知らぬ人に育てられるなんて現実的なお話ではない、とも思います。でも、少女飛鳥と周りの人の温かさ、団欒、そしていつかは別れていくという儚さ。私たちの心の中に、必ず共通するものがあると思います。
二十歳になったばかりの時に、出会ってよかった。そんな風に思える作品です。