おいしいものでいっぱい

森の奥の小さなトタン屋根のお家の煙突からは、もくもくもくと煙が上がっています。なにやらおいしそうな匂いもしてきました。「今日はどんぐり月のお鍋を作るのです」背の小さな女の子はふさふさのお耳をうごかしながら、ぴょこんと答えました。「お米といっしょにくりを炊きます。つやつや色のくりだと良いです。リスさんに手伝ってもらうともっと良いです。リスさんはおいしいくりを見つけるのが得意なんだから!」女の子の横でこれまた小さなリスが、えへんと胸を張りました。「さつまいもは、そのまま焼いてもおいしいけれど、ふかしてみてもおいしいし、つぶしてミルクとさとうと混ぜてもおいしいお菓子になります。かぼちゃはポタージュにしちゃおうかしら。たくさんのきのこのスープもつくらないとね」女の子の足元にはもぐらさんが顔を出しています。さつまいもはもぐらさんに選んだもらったのでしょうか。「お魚もおいしいのよ。パイにしようかしら。あとはくだものね!りんごもぶどうもかきも、ぜんぶぜんぶおいしいの!」女の子は上機嫌です。さくりさくりと包丁で、うさぎさんに仕上げています。おいしいくだものを運んでくれたくまさんもしかさんも、にっこり笑っています。「どんぐり月はおいしいものでいっぱいですね。食べ過ぎてしまうかもしれないわ。森のみんなにもおすそわけしないとね!」女の子は木の枝にとまっていたことりさんに、伝言を頼みました。森のなかまが、いっせいに集まってきました。「わあ、おいしそうだね」「さすがだね!」「すごいや」「おいしそうでしょう?がんばったのです。どうぞ召し上がれ!」そこに一人の人が訪れました。「こんな山奥に家?あれはなんだ?少女の形をした何かの周りに、動物の毛皮を被った人間が、あ」「あら、あなただめじゃないですか。森のなかまじゃないと、せっかくのお料理がふるまえないの。でもご飯を持ってきてくれたのなら良いわ。トリックオアトリートよ」「え、あの」「あれれ?持ってないのかしら?森のなかまの格好もしていらっしゃらない?あらら?でもでもよく見るとあなたおいしそう。持ってきてくれたのね!あなたも森のなかまです!」女の子はにっこりしました。森のなかまがふえました!おいしいごはんが増えました!どんぐり月はおいしいものでいっぱいですね。