ブレック・ファースト・オン・ザ・グッド・モーニング

人生最後の日に食べたいものを問われて朝食と答える人はいないだろうけど、人生最後の日も朝食を食べるだろう。なんて考えながら、薄緑のカーテンを引く。快晴。空はどこまでも青く、日差しはフローリングを優しく照らす。寝ぼけ眼を優しく起こすように。
「おはよう」
誰に届くわけでもないけど、言ってみる。朝の光は爽やかで友達のような親しさを持っている。鳥の鳴き声と往来を走るトラックのエンジン音は一日の始まりを告げている。穏やかな朝だ。穏やかで素敵な朝には素敵な朝食でなくてはいけない、と思う。今日は贅沢をしよう。
まずはミルクを温める。あの人の朝食はいつもブラックコーヒーだったが、私には少し苦い。仕方がないのでコーンスープで許してもらう。火は限りなく弱火で、焦がさないようにヘラで混ぜるのを忘れないのがコツ。次に6枚切りの食パンをトースターに入れ、ついでにクロワッサンも入れる。食べ過ぎのような気もするが、やはりどちらも食べたい。バターの溶けたトーストとサクサクパリパリのクロワッサンはどちらも譲れない魅力がある。パンを焼き上げている間にフライパンに油を敷いてベーコンを投入し、卵を割る。一瞬ゆでたまごも考えたが、やはりここはベーコンエッグ。いや、スクランブルエッグも捨てがたかったが。ついでにたこさんの形にしたソーセージも焼いてしまう。今日は贅沢をすると決めたのだ。ぱちぱちと油が跳ねる音が、だんだんじゅわあ、とうまみの音に変わる。トースターがチン!と軽快なベルの音を鳴らしたところで、扉を開く。ふんわりと焼けた小麦の香りがキッチンに広がっていく。やはりこうでなくては。平らなプレートに洗ったレタスとプチトマトを飾り付け、キャンディチーズも添えておく。そこに焼きたてのパン! トーストの上にはたっぷりの角切りバターを滑らせるとじわあと溶けて染みていく。そして焼きたてのベーコン・エッグ。ソーセージも忘れずにプレートに盛り付けたら、ヨーグルトとりんごを出し、コーンたっぷらのコーンスープを添えて完成。これが最高の朝食。ブレック・ファースト。食パンの上に乗った柔らかい黄身に歯を立てた瞬間、至高の喜び。やはり朝食は幸せでなければいけない。人生最後の朝食なんて尚更。うん、おいしい。ああ、ピンポンが鳴っている。出なくては。

「──さんで合ってますね? 警察です。あなたに──の容疑がかけられています。署までご同行願います」