小さな罪について話をしよう。とはいっても、法に触れるようなものではない。罪と罰のような話ではないんだ。人によってはなんてこともないよな、そもそも罪と呼ぶのもおかしいような、ほんのちょっとしたことなんだ。君にとっては本当に些細なことで、なんだ、そんなことかと笑われてしまうかもしれないけれど、良ければ聞いてくれるかい?うん。ありがとう。夜中にラーメンを食べた話だ。おっと待ってくれ。お願いだからため息をついて冷笑で返さないでくれよ。だから嫌だったんだ。先に言っておいただろう。真剣な話なんだよ。いいね?
それは午前3時半を回ったころだったかな。深夜の時間帯だと見えないものを見ようとした午前2時とかの方がたぶん面白いんだろうけど、午前3時半だった。午前3時半だって好きな曲に出てくるから良いのだよ。そういえば歌詞に登場する時間帯は午前2時が一番多いらしいよ。話が逸れたね。ともかく、午前3時半ごろに急にお腹が減ったんだ。なぜその時間まで起きていたかというと、慢性的な生活リズムの乱れと、なんだか眠れない夜だったことと、そうだなあこれと言った明確な理由は無かったけれど、起きていたのだよ。君だってそういう夜があるだろう?どうせ眠れない、お腹が空いた。けれど、我慢ならないほどお腹が空いていたわけではなかった。そもそも夜中、夕食を終えてから何か炭水化物を食べる発想が今まで無くてね。肌にも悪いし、体重にも悪いらしいし。だからこの話はここで終わるはずだったんだ。けれどふと思ってしまった。何か背徳的なことがしてみたいと。
実行に移そうとしたのはほんの気まぐれなのだよ。ちょっとだけ悪いことがしてみたいと思ったのだよ。先ほども自分で言った通り、真夜中にラーメンを食べてはいけませんという決まりは存在しない。当たり前だけれどね。悪いことだとも定義されていない。悪というのは何かを探ると哲学の話になってしまうけれど、誰かに不利益をもたらすもの、自身の道徳に反するものだと考えると、真夜中のラーメンなどそれほど悪いことではない。けれど、誰かにバレたら怒られるような気がした。気がしたので、なるべく音を立てずに食べることにしたんだ。まず器を用意する。そこで気付く。麺をすする音は存外に響くのではないか。その他お湯を沸かす音、袋を開ける音は響く。試行錯誤の上、どのような方法を取ったと思う?洗面所に行ったんだ。
洗面所で扉を閉めた。ここが晩餐のテーブルだった。お湯は鍋ではなく、ポットで沸かした。もちろん我が家のポットはピィィと電子音で鳴かない設定になっているので、安心してほしい。そしてラーメン皿に麺を入れ、スープを入れポットのお湯を注ぐ。当たり前だけれど、チキンラーメンじゃあるまいし、ただの袋麺はポットのお湯では解れなかったよ。カップラーメンにすればよかったと気づいたが、すでに後の祭りだったね。硬い麺も嫌いではないのだけど。むしろ多少硬めの方が好みかな。麺もさすがにカロリーを気にした結果「野菜と出汁がおいしい麺」みたいなものにしたんだ。たまたま家にあったのだけど、名前からしていかにもカロリーが考えられてそうだ。どうしても小心者で自分でも困ってしまうね。それで、麺をどうにか解してスープを飲んでみて、あまりおいしくなかった。どうにも味が薄い。醤油とラー油を足してみたが、なんとも微妙だった。スープが好みではなかったんだね。次からは一生食べないよ。普通の醤油ラーメンで良かった。おいしいと感じなかったもう一つの理由に、隠れながら食べる罪悪感もある。洗面所のひんやりした床にあぐらをかいて、食器を置いて啜る音を立てないようにして食べたラーメンはそれは、おいしいとは言えないよね。言い訳をさせてもらうと、母上がたいそう耳が良く、ちょっとした物音で目が覚めてしまう体質なのだ。それで静かにしていた。なぜそこまでバレたくなかったかというと、怒られる気がしたから。今考えると、食事の時間帯やカロリー過多について苦言を呈されるくらいはすると思うけれど、そう本気で怒られるようなことはなかっただろう。けれども他人から怒られるのがどうにも嫌だったんだ。
罪というのはこれだけさ。君は驚いたろうね。そうだとも。本当にこれだけなんだよ。けれど結果としては失敗だった。お酒を飲みたいことより、年齢で制限されたものが開放されたことへの喜びと、今まで禁止されていたものへの期待で、飲んだアルコールがあまりおいしくなかったのと似ている。次の夜食はもう少しおいしく食べられると良いなと思う。ただし、あくまでもこっそりね。