わがフリードリヒ

 こうよばせてくれないか さいしょでさいごの こいびと

                     
 だれしも自分の心のなかに、支えとなるような女性がひとりはいるのではないでしょうか。

 わたしの場合は三人います。
 今回はそのうちのひとりが登場する作品をご紹介します。

 横溝正史『八つ墓村』

 有名な作品です。
 この言葉を聞いたことのある方はぴんとくるのではないでしょうか。

 「祟りじゃあああああ!」

 が。
 このセリフ、実は映画で創作されたもの。
 原作にはないセリフなのです。
 市川昆監督、恐るべし。

 ミステリー小説の金字塔として名高い本作ですが、「敷居が高そう」「なんか怖そう」と手を出しかねている方は意外と多いのではと思います。
 
 知らざァいってきかせやしょう。
 
 でら面白いですよ。

 なんといいますか。
 「ひとりの青年が、ほんとうの自分とであう物語」なのですよ。
 カルマなのですよ。
 鍾乳洞でのバトルあり、ロマンスあり、サスペンスありのエンターテイメント小説なのですよ。
 投稿者の初読の感想は、
「インディ・ジョーンズじゃねえかアアア!」 でした。
 はりつめたゆみの硬質なミステリーと予期してかかると、すがすがしいほどいい意味で裏切られます。

 そんな作品に登場し、わたしの心をぬすんでいったお嬢さんはこのかた。

 典子さん。

 主人公の従妹です。
 誰が何といおうと、この作品のヒロインです。
 というより、わたしの心のヒロインです。
 登場時での読者への情報の与えられ方、その後の印象の変化のさせ方が心憎い。

 あれだけ主人公に「みにくい」といわせておいて、彼女の第一声は、主人公に向かって言った、「お兄さま」。
 主人公はどきっとする。
 読者もどきっとする。
 せきねはずきゅんとされる。

 彼女の言動に主人公はすくわれ、それ以上にせきねは癒されました。

 しかし。

 この作品、ヒロインと目される女性がもうひとりいるのです。
 映像化されるさいも、彼女の方にスポットライトがあてられることが多いのです。

 ドラマ版ふくめ、「八つ墓村」の映像化作品を3本観ましたが、典子さんが出てくる作品は1本だけ。
 あとの2作品は…存在さえも…匂わされることはなく……。

 典子さんを! 典子さんを出してくれ!

 どうか「八つ墓村」をお読みください。
 そしてせきねに同情してください。

 『八つ墓村』を面白いと思われた方にはこちらもよければ
 → 横溝正史『犬神家の一族』