とてつもなく日本

 近ごろではもはや取るに足りんと思われているのか、速報でも震度3未満を報道しなくなりましたが、震度1であろうと2であろうと恐いものは恐いので、避難を要さない程度の地震の場合はロックンフラワーのごとく身体や頭を揺らすことで何とかごまかしています。これが冗談ではなく真面目なことなのがどうにも辛いところです。
 地震酔いには目を閉じて深呼吸だよ
 


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 初めてのバイト面接へ赴いたところで姉といっしょに被災したのですが、それが新宿高層ビルの10階とくればそらもう揺れるわ揺れるわ、体感としては震度5強の騒ぎではなかったのではないかと思います。
 その後は帰宅難民になるかと思われましたが、ありがたくも初対面の上司のお宅で一晩お世話になりました。そばには姉がおり、親とも連絡がとれて無事が分かり、更には上司=家主さんから大変こまごまと衣食住の世話をしていただくという、きわめて恵まれた環境に守られていました。守られながらも緊急警報が一時間と空けずに響き続ける状況はやはり途方もなく不安で、これはいよいよ死や家族との別離、祖国との別離といった、これまで自分とはまだ縁遠いと思っていたものたちを覚悟せねばなるまいと思いました。しかし覚悟というものは、覚悟したい、覚悟しよう、覚悟するぞ、覚悟せねば、などと思ってできるものではありませんでした。これまで限りなくぬくぬくと生きてきた身です。覚悟をせねばならない局面に一切あたったことがなかったため、覚悟というものの存在することは知っていても、それを成し遂げるための難までを関知していなかったのです。未だにその難しさを把握したとは言いがたいが、その末端に手を触れたうえで、これまでの歴史のなかで、そしていま原発の周辺でおこなわれている思考の活動(覚悟へ向かう)を思うと、その重みに総身が粛然といたします。まことに。
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 (初代)ゴジラ、ウルトラシリーズ、エヴァンゲリオン、これらはいずれの作品も日本のカルチャーを支える重要かつ代表的な柱です。これらにほぼ一貫して共通する「日本ばかりを執拗に襲う巨大な外敵」という要素は、太古の昔からこの美しい国土へ幾度となく理不尽に襲い掛かってきた天災に対する無意識の恐怖が現れたものである……とする意見はけっこうメジャーらしいです。
 これまで私はウルトラマンやセブンの華々しい活躍を見せるために怪獣が作られているものと思っていましたが、実際はそうではなく、むしろ日本人の脳中に付き纏う怪獣の恐怖から救うためにウルトラマンが作られたのかもしれません。つまり『ウルトラマン』『ウルトラセブン』という作品は、はじめに怪獣ありきだったのかもしれません(セブン以降は知識がない)
 これに対して『新世紀エヴァンゲリオン』は、怪獣(使徒)と戦ってくれる汎用人型決戦兵器EVAそれ自体がヒトの作り出したものであり、なおかつそのコアとパイロットには「母子」という、生物を象徴するような関係が組み込まれているため、ウルトラマンほど純然たる親切装置ではありません。日本人が日本人を、ヒトがヒトを、生物が生物を守るという自衛装置でもあるのです。
 くわえてEVAは、その始まりこそヒトが作ったものでこそありますが、往々にして制御不能に陥り、けだもののような暴走を見せます。いつその拘束具を破壊されるか、握った手綱を振り払われるかという恐怖が常に付き纏っています。つまり、ヒトを守るEVA自体が同時にヒトを脅かす怪獣でもあるのです(しまいにゃヒトという種それ自体が使徒の一種であるとさえこの作品は断言します)。
 そして『ゴジラ』で日本人の前に訪れたヒーロー、もとい兵器については、今言う必要もなかろうと思います。
 と並べてみるとウルトラマンは非常に異常。
 だって光の国からぼくらのために、何の見返りもなく地球まで来て、日本と宇宙の平和のために身を呈して戦ってくれる献身的なヒーローなんて、たとえ作り話にしたって凄いでしょう…… ものには限度があるでしょう…… 普通クリエイターのほうも「こりゃ無理がある」と思うでしょう…… その後も次々やってくるM78星雲人の親日ぶりといったら台湾並み(※)です。その途方もない都合の良さ、優しさ、親切さ。とてつもない。いっそ怪獣の襲撃以上に理不尽です。こうも素晴らしい、非の打ち所なく素晴らしいヒーローなど、そうそう見られたものではありません。どうしてそこまでしてくれるのか?
 そこまでしてほしいと願った人々がウルトラマンを作ったからではないでしょうか。
 66年の人々の、平和への渇仰が偲ばれます。
 そして今、再びそれが求められているものと思います。
(※台湾はもともと親日国として知られていますが、今回の大震災においてもいち早く支援を願い出てくれ、そればかりか、つい先日もチャリティ番組で日本円にして21億という多大な義捐金を寄せてくれたのだそうです。大好き!!)
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 ゴジラ・ウルトラ・エヴァとはちょっと違う話になりますが
 科学文明の発展に思いを馳せていると、どうしてもそれに逆襲されることばかり考えたくなるわけですが(特に創作の世界ではそのようになりやすい)、アトムだけは、いつだってそれを十万馬力で根元からメリメリ覆してくれます。
 『鉄腕アトム』という作品には文明へ警鐘を鳴らす一面もありますが、でもアトムくんは違います。彼は科学の子です。戦後復興の灰のなかから生まれた、小型の原子力エンジンで動く、強くて優しくて頼りになる、いつでも人間を守ってくれる、素敵なロボットの友達です。
 アトムは人間に作られ、ロボット三原則のために人間を攻撃できず、人間を守るために全力を傾けます。つまるところ彼は人間の肯定者です。どんな悪いことが起ころうとも、どんな悪い人間であろうとも、アトムは必ず守ります。
 この世でいちばん素敵なあの友達が守ろうとするに違いない、守らざるを得ないものを、私のごとき惰弱な人間風情が蔑ろにして良いはずはありません。
 ですから今日も堕落せず、人類的生活を心がけます。
 アトムと、復旧の最前線で戦っている方たちの恥となることのないよう、それを鋭意心がけます。