座標変換


ニュートン力学における2つの慣性系の間を結ぶ座標変換について考えます。図2-1のように静止している$(x,y,z)$座標系を静止系${\rm O}$と呼ぶことにします。ここでは分かりやすくするため、${\rm O}$系に対して速度$v$で$x$軸正方向に等速直線運動している$(x',y',z')$座標を慣性系${\rm O'}$とします。

図2-1
図2-1


この2つの座標の関係は図2-1からわかるように次の式で表されます。 \begin{eqnarray} \tag{2.1} t'&=&t\\ \tag{2.2} x'&=&x-vt\\ \tag{2.3} y'&=&y\\ \tag{2.4} z'&=&z \end{eqnarray} このように一つの座標系における座標を、他の座標系における座標で表すことを座標変換といいます。上述の式で表される座標変換をガリレイ変換といいます。質量$m\,$の物体が加速度$a$で動いているとき、静止系${\rm O}$から見た場合、ニュートンの運動方程式より 、かかっている力は、 \begin{equation} \tag{2.5} ma=m\frac{d^2x}{dt^2}=F \end{equation} で表せます。では、慣性系${\rm O'}$から見た場合はどうなるでしょうか?$(2.1)、(2.2)$式を代入してみると、 \begin{eqnarray} ma'&=&m\frac{d^2x'}{dt'^2}\\[5pt] &=&m\frac{d^2(x-vt)}{dt^2}\\[5pt] &=&m\left[\frac{d}{dt}\left\{\frac{dx}{dt}-\left(\frac{dv}{dt}\right)t-v\left(\frac{dt}{dt}\right)\right\}\right]\\[5pt] \tag{2.6} &=&m\left\{\frac{d}{dt}\left(\frac{dx}{dt}\right)-\frac{d}{dt}\left(\frac{dv}{dt}\right)t-\frac{dv}{dt}\left(\frac{dt}{dt}\right)\right\} \end{eqnarray} ここで、${\rm O'}$系は等速直線運動をしているので$v\,$は一定、つまり$\frac{dv}{dt}$は$0$となります。よって \begin{eqnarray} ma'&=&m\frac{d^2x}{dt^2}\\[4pt] \tag{2.7} &=&F \end{eqnarray} となり、運動方程式は${\rm O}$系から見ても${\rm O'}$系から見ても不変です。このように、物理学の法則はどの座標系(慣性系)で記述しても同じでなければならないという考えを相対性原理と呼びます。 次に、速度について考えてみます。質量$m$の物体が速度$V$で動いているとすると、速度は位置の微分で表されるので、${\rm O}$系から見ると、 \begin{equation} \tag{2.8} V=\frac{dx}{dt} \end{equation} です。では、${\rm O'}$系から見るとどうなるでしょうか?$(2.1)、(2.2)$式を代入してみると、 \begin{eqnarray} V'&=&\frac{dx'}{dt'}\\[4pt] &=&\frac{d(x-vt)}{dt}\\[4pt] &=&\frac{dx}{dt}-v\\[4pt] \tag{2.9} &=&V-v \end{eqnarray} となります。このように速度はどの座標系から見るかによって異なるということが分かります。しかし、この法則が成立しない場合があります。それは$v\,$が光速の場合です。なぜなら、光の速さは一定だからです。(これはマイケルソン‐モーレイの実験で確かめられています。気になる方はぜひ調べてみてください。)光はどの座標系から見ても同じ速さなのです。ニュートン力学でのガリレイ変換は光速度不変の原理に矛盾しているということになります。そこで、ガリレイ変換を拡張し、相対性原理と光速不変の原理を満たし、二つの慣性系の相対速度$v\,$が光速よりはるかに小さい場合にガリレイ変換が近似的に成り立つ座標変換が考えられました。これをローレンツ変換といいます。このローレンツ変換を用い、光速度不変の原理と相対性原理を主張する理論を特殊相対性理論といいます。

では、ローレンツ変換の式を導いてみましょう! まず、電車に乗って遠ざかる子供を駅でお母さんが見送っている場面を想像してみてください。ここでは、電車は速さ$v\,$で等速直線運動し、お母さんは静止しているとします。子供が${T_0}'\,$秒ごとにレーザーを光らせ、駅にいるお母さんがその光を見るとします。縦軸を時間$t$、横軸を位置$x$とすると、お母さんから見た場合、図2-2のようなグラフになります。

図2-2
図2-2


レーザーの光がお母さんのもとに届くまでにわずかですが時間がかかるので、子供がレーザーを光らせた時間${T_0}'$とお母さんに光が届いた時間$T$は同時刻ではありません。ここで、実数$k\,$を用いて \begin{equation} \tag{2.10} T=k{T_0}' \end{equation} と置きます。
次にお母さんがレーザーを$T_0$秒ごとに光らせ、子供がその光を見るとします。子供のもとに光が到達する時刻を$T'$とすると、お母さんから見た場合、図2-3のようなグラフになります。
図2-3
図2-3


$T_0$と$T'$の関係は \begin{equation} \tag{2.11} T'=kT_0 \end{equation} という式で表せます。 次は、お母さんが発した光を電車に乗っている子供が鏡で反射するとします。お母さんが光を発した時刻を$T$、子供が反射させた時刻を$T'$、位置を$L$とすると、お母さんから見た場合、図2-4のようなグラフになります。
図2-4
図2-4


図2-4より、次の式が立てられます。 \begin{equation} \tag{2.12} L=v\times\left(\frac{k^2T+T}{2}\right)=c\times\left(\frac{k^2T+T}{2}-T\right) \end{equation} 変形していくと、$k$ は \begin{eqnarray} v\times\left(\frac{k^2+1}{2}\right)T&=&c\times\left(\frac{k^2-1}{2}\right)T\\[8pt] v\left(k^2+1\right)&=&c\left(k^2-1\right)\\[8pt] \left(v-c\right)k^2&=&-c-v\\[8pt] k^2&=&\frac{-c-v}{v-c}\\[8pt] &=&\frac{c+v}{c-v}\\[8pt] &=&\frac{1+\left(v/c\right)}{1-\left(v/c\right)}\\[8pt] \tag{2.13} k&=&\sqrt{\frac{1+\left(v/c\right)}{1-\left(v/c\right)}} \end{eqnarray}          となります。これは後程使うので今は置いておきます。 また別の条件で考えてみます。今度は子供が鏡で反射するのをすっかり忘れて、別の鏡に当たって返ってくるとします。鏡で反射した時刻を$t\,$、位置を$x\,$とすると、お母さんから見た場合、図2-5のようになります。
図2-5
図2-5


視点を変えて、子供から見た場合、図2-6のようになります。
図2-6
図2-6


図2-5、2-6より、$(2.14)、(2.15)$式が立てられます。 \begin{eqnarray} \tag{2.14} t'-\frac{x'}{c}&=&k\left(t-\frac{x}{c}\right)\\[4pt] \tag{2.15} t'+\frac{x'}{c}&=&\frac{1}{k}\left(t+\frac{x}{c}\right) \end{eqnarray} $(2.13)、(2.14)、(2.15)$式を用いて、$t'\,$と$x'\,$を$t\,$と$x\,$で表します。 $(2.14)、(2.15)$より、 \begin{eqnarray} 2t'&=&k\left(t-\frac{x}{c}\right)+\frac{1}{k}\left(t+\frac{x}{c}\right)\\[8pt] &=&\sqrt{\frac{1+\left(v/c\right)}{1-\left(v/c\right)}}\left(t-\frac{x}{c}\right)+\sqrt{\frac{1-\left(v/c\right)}{1+\left(v/c\right)}}\left(t+\frac{x}{c}\right)\\[8pt] &=&\frac{{\sqrt{1+(v/c)}}^2\left\{t-\left(x/c\right)\right\}+{\sqrt{1-(v/c)}}^2\left\{t+\left(x/c\right)\right\}}{\sqrt{1-\left(v/c\right)}\sqrt{1+\left(v/c\right)}}\\[8pt] &=&\frac{\left\{1+\left(v/c\right)\right\}\left\{t-\left(x/c\right)\right\}+\left\{1-\left(v/c\right)\right\}\left\{t+\left(x/c\right)\right\}}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] &=&\frac{2t-2\left(v/c^2\right)x}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] t'&=&\frac{t-\left(v/c^2\right)x}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] \tag{2.16} &=&\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t-\frac{v/c^2}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x \end{eqnarray} $(2.15)−(2.14)$より、 \begin{eqnarray} \frac{2x'}{c}&=&\frac{1}{k}\left(t+\frac{x}{c}\right)-k\left(t-\frac{x}{c}\right)\\[8pt] &=&\sqrt{\frac{1-\left(v/c\right)}{1+\left(v/c\right)}}\left(t+\frac{x}{c}\right)-\sqrt{\frac{1+\left(v/c\right)}{1-\left(v/c\right)}}\left(t-\frac{x}{c}\right)\\[8pt] &=&\frac{{\sqrt{1-(v/c)}}^2\left\{t+\left(x/c\right)\right\}-{\sqrt{1+(v/c)}}^2\left\{t-\left(x/c\right)\right\}}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] &=&\frac{2\left(x/c\right)-2\left(v/c\right)t}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] \frac{x'}{c}&=&\frac{\left(x/c\right)-\left(v/c\right)t}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] x'&=&\frac{x-vt}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}\\[8pt] \tag{2.17} &=&-\frac{v}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t+\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x \end{eqnarray} 今回は$x\,$軸方向の移動のみを考えているため、$y\,$,$z\,$は変化がないので、 \begin{eqnarray}      \tag{2.18} t'&=&\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t-\frac{v/c^2}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x\\[8pt] \tag{2.19} x'&=&-\frac{v}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t+\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x\\[8pt] \tag{2.20} y'&=&y\\[8pt] \tag{2.21} z'&=&z \end{eqnarray}    このような式が導けました。これがローレンツ変換の式です。

ガリレイ変換の式と比べて随分複雑になった気がしますが、二つの慣性系の相対速度$v\,$が光速$c\,$よりはるかに小さい場合にはガリレイ変換が近似的に成り立つはずです。確かめてみましょう!
時間の式において、$v\,$が光速$c\,$よりはるかに小さいということは$\frac{v}{c}\ll1$であるから、${\left(\frac{v}{c}\right)}^2\approx0$、$\frac{v}{c^2}\approx0$と近似すると、 \begin{eqnarray} \tag{2.18} t'&=&\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t-\frac{v/c^2}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x\\[8pt] \tag{2.22} t'&=&t \end{eqnarray} 位置の式においても同様に近似でき、 \begin{eqnarray} \tag{2.19} x'&=&-\frac{v}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t+\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x\\[8pt] \tag{2.23} x'&=&x-vt \end{eqnarray} よって、$v\,$が光速$c\,$よりはるかに小さい場合、ローレンツ変換は下記の式に近似できます。                 \begin{eqnarray} \tag{2.22} t'&=&t\\ \tag{2.23} x'&=&x-vt\\ \tag{2.20} y'&=&y\\ \tag{2.21} z'&=&z \end{eqnarray}   これを最初に出てきたガリレイ変換の式と見比べてみてください。全く同じですよね。ガリレイ変換を拡張し、光速でも成り立つようにした座標変換がローレンツ変換なのです。


−おまけ− \begin{eqnarray}      \tag{2.24} t&=&\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t'+\frac{v/c^2}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x'\\[8pt] \tag{2.25} x&=&\frac{v}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}t'+\frac{1}{\sqrt{1-{\left(v/c\right)}^2}}x'\\[8pt] \tag{2.26} y&=&y'\\[8pt] \tag{2.27} z&=&z' \end{eqnarray}            これはローレンツ逆変換と呼びます。ローレンツ変換の式と見比べてみると、$v\,$の前の符号が変わっているだけです。これは例えば${\rm O}$系から見て${\rm O'}$系が$v$で移動しているならば、${\rm O'}$系から見ると${\rm O}$系は$-v\,$で移動して見えるように、系の運動の向きが逆になるからです。$v\,$を$-v\,$とすれば同じ形になり、相対性原理を満たしています。


【コラム】
ここまで読むと、ガリレイ変換は不完全なもので、より正確なローレンツ変換がある今、ガリレイ変換はもう必要ないのでは…と思った方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そうではありません。日常の範囲ではガリレイ変換を用いて十分な精度で計算することができます。例えば、電車に乗っている人とホームに立っている人とではローレンツ変換の時間の式 からわかるように厳密には時間がずれます。しかし、実際はホームでも電車内でも同じ時間で考えていますよね。これは電車の速さは光速よりもはるかに小さいので、時間のずれは日常生活では無視できるほどきわめて小さいということです。光速より十分に小さいという状況の下ではガリレイ変換で十分に運動を考えることができます。もちろんローレンツ変換を用いることもできますが、計算が複雑になってしまいます。実用的な面では、ガリレイ変換とローレンツ変換はそれぞれ得意な範囲があるのです。