LIGO重力波を観測


日本時間で10月3日ノーベル物理学賞が発表されました。重力波の観測が2017年のノーベル物理学賞でした。今話題の重力波ですが一体どのようなものなのでしょうか?重力波は簡単に言うと時空の歪みなのです。この章では今回重力波を観測したLIGOについて紹介していきたいと思います。  LIGOはアメリカワシントン州とルイジアナ州に設置された観測機です。2002年より観測が開始されましたが現在の観測器は2015年と2016年に改良・工事されたものです。2015年の改良以降、これまでに重力波が数回観測されました。初めて重力波が観測されたのは2015年9月14日、なんと観測が再開されてからわずか二日後の事と言います。観測された波形が二つの場所で確認されたことでそれがノイズではなく重力波であることが決定づけられました。

図6-1
図6-1

ここで次にLIGOの仕組みについてお話ししたいと思います。LIGOは図(6-2)の様に“レーザーマイケルソン干渉計”が用いられた垂直に交わる2本の同じ長さの腕を持つL字型の観測器の事を言います。2本の長い筒が組み合わさった形のこの観測器ですが、重力波が到達することによる時空のゆがみと光速一定の原理を利用することにより、重力波を測定することが出来ます。

光源から発射されたレーザーは半透明鏡により2方向に分けられます。2方向に分けられたレーザー光はそれぞれの端に設置された反射鏡により反射されて半透明鏡へと戻って行き、反射、透過されて検出器へと進みます。重力波には垂直方向に時空を歪ませる性質があるため、観測機の腕は直交するように設置されています。腕の伸び縮みにより生じる光路差は通常と重力波到来時に検出される光の干渉に変化をもたらすため、重力波到来時にはこれを波形として検出することが出来ます。

図6-2
図6-2

こうして算出された波形はアインシュタインの方程式より導かれる重力波の波形と比べられ重力波であることが確かめられるのです。波形には“2つのブラックホールの合体”、“連星中性子星の合体”、“超新星爆発”の3種類があり今回2015年9月14日に観測された重力波はブラックホールの合体によるものだと考えられています。

重力波が2つのブラックホールの合体によるものだと分かると、次に観測された波形から2つのブラックホールの重さの組み合わせを調べることが出来ます。何通りもの質量の組み合わせによる波形のシミュレーションが行われていることから9月14日に観測された重力波は太陽の36倍質量と29倍質量のブラックホールによるものだという事が明らかになりました。発生源における重力波の振幅(ブラックホール二つの合計質量から求められる)と観測地点におけるそれとの差から距離を推定できると言います。36倍質量と29倍質量のブラックホールの合体が起きたことから今回の重力波発生源が地球から 14億光年離れた位置にあることが確認されています。

図6-3
図6-3 ブラックホールの合体による重力波イメージ

重力波の存在は、一般相対性理論において重要な方程式である重力場の方程式から予言されました。マクスウェル方程式から電磁波の存在が予言されたように、時間に依存して伝播する存在が考えられたのです。

重力場とは、質量のある物体が存在することによって時空が歪んでいるような場のことです。時空が歪んでいる、というのはその時空の計量テンソルがミンコフスキー時空の計量テンソルと異なっている、という意味で用いました。

ここで計量テンソルについて説明します。簡単に言うとある空間における距離を定義する量です。例えば私たちが普段使うような3次元空間における距離は \[ds^2=(dx)^2+(dy)^2+(dz)^2=g_{ij}dx^idx^j\tag{6.1}\] \[ g_{ij} = \left( \matrix{ 1 & 0 & 0 \cr 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & 1 \cr } \right) \tag{6.2}\] と表されます。$(dx^1=dx、dx^2=dy、dx^3=dz)$この$g_{ij}$が計量テンソルです。ほかにも、極座標で表した2次元球面における計量テンソルは \[ds^2=a^2(dθ)^2+a^2sin^2θ(dφ)^2=g_{ij}dx^idx^j\tag{6.3}\] \[ g_{ij} = \left( \matrix{ a^2 & 0 \cr 0 & a^2sin^2θ \cr } \right) \tag{6.4}\] となります。$(dx^1=dθ、dx^2=dφ)$またミンコフスキー時空においては世界間隔$s$が距離となり、その計量テンソルは \[ g_{ij} =η_{ij}= \left( \matrix{ -1 & 0 & 0 & 0 \cr 0 & 1 & 0 & 0 \cr 0 & 0 & 1 & 0 \cr 0 & 0 & 0 & 1 \cr } \right) \tag{6.5}\] となります。ミンコフスキー時空の計量テンソルは特に$η_{ij}$で表します。計量テンソルによって例えば位置によって距離が異なり歪んだようになる空間も表現できます。距離が異なるというのは最小経路が異なるということでもあり、そのため時空の計量テンソルは物体や光の運動に影響を与えると考えることができます。

ここで重力場の方程式をご紹介します。以下のようになります。 \[R_{ij}-\frac{1}{2}Rg_{ij}=\frac{8πG}{c^4}T_{ij}\tag{6.6}\] $R_{ij}$はリッチテンソル、$R$はリッチスカラーでありリッチテンソルから作られるスカラーです。リッチテンソルは計量テンソルを微分した項などで作られ、時空の曲率を表します。$T_{ij}$はエネルギー運動量テンソルで、物体や場のエネルギーと運動量の密度を表します。つまり左辺は時空の幾何的な性質を表し右辺は時空の中にある物質、エネルギーを表すことになります。よって時空の中の物質の存在が時空の計量テンソルなどの幾何的性質を決定するということが分かります。

真空中の微小な振動の重力波は、重力場の方程式においてミンコフスキー時空の計量テンソルから微小にずれた計量テンソルを考えることで求めることができます。$h_{ij}$をその2次以降の項は無視できるほど微小なずれとして、ミンコフスキー時空の計量テンソルから微小にずれた計量テンソルは \[ g_{ij} =η_{ij}+h_{ij}\tag{6.7}\] と表せます。このもとで重力場の方程式の左辺を変換していき、また真空中ではエネルギー運動量テンソルは0とおけるので、そのようにおくと以下のような波動方程式が導かれます。 \[ \square h_{ij}=0\tag{6.8}\] この波動方程式の解は$ h_{ij}=a_{ij}\,cos\,{k(ct-x)}$というような波であり、これが空間を伝播する時空の歪み、重力波を表しています。重力波の強さは、電磁気学において電磁波の放射と同じように、距離に反比例して減衰します。