ミンコフスキー時空
時間、そして空間の長さが絶対的なものではなく相対的なものであるということが分かりましたが、時間と空間という相対的なものを用いてある絶対的なものを考えることが出来ることについてこれからお話ししたいと思います。
お話をするにあたって、まずはミンコフスキー時空について説明したいと思います。図3-1に示したように“ミンコフスキー時空”とは時間(1次元)と空間(3次元)を統一的に扱う4次元概念の事を言います。実際に四次元を図に書くことはできないので今回は下の図において空間を2次元にして表しています。45°の傾きの円錐面(式:$\mathrm{(ct)}^{2}-(\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2})=0$で表すことが出来る)を持った円錐の事を光円錐と言って、時間軸に沿って正方向に広がりを持つ光円錐を未来光円錐、そして負の方向に広がりを持つ光円錐のことを過去光円錐と呼びます。ある事象は世界点という一つの点としてミンコフスキー時空上に表され、原点と世界点の間隔を$s$と置いた時、それの二乗は$\mathrm{s}^{2}=-\mathrm{(ct)}^{2}+(\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2})$となります。それゆえ下図の円錐面は$\mathrm{s}^{2}=0$の時を、円錐内部は$\mathrm{s}^{2}<0$、円錐外部は$\mathrm{s}^{2}>0$の時を表すものであるという事が分かるでしょう。 また、$\mathrm{s}^{2}=-\mathrm{(ct)}^{2}+(\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2})$の式より光速を超えないものは$(\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2} )<\mathrm{(ct)}^{2}$となることから円錐内部の$\mathrm{s}^{2}<0$の領域(時間領域)に留まり、円錐外部の空間的領域にでることが出来ません。世界点$(x,y,z,ct)$が世界点$(x',y',z',ct')$にローレンツ変換されたことを考えてみます。 ローレンツ変換後の${s'}^2$は${s'}^2=-(ct')^{2}+{x'}^{2}+{y'}^{2}+{z'}^{2}$のように表されるのでこの式にローレンツ変換式
\begin{eqnarray}
\tag{3.1}ct'&=&\frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}}ct-\frac{v/c}{\sqrt{1-(v/c)^2}}x\\[4pt]
\tag{3.2}x'&=&-\frac{v/c}{\sqrt{1-(v/c)^2}}ct+\frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}}x\\[4pt]
\tag{3.3}y'&=&y\\[4pt]
\tag{3.4}z'&=&z\\[4pt]
\end{eqnarray}
を代入すると
\begin{eqnarray}
\tag{3.5}(ct')^2&=& \frac{1}{1-(v/c)^2}\mathrm{c}^{2}\mathrm{t}^{2}-\frac{2v/c \cdot ct \cdot x}{1-(v/c)^2}+\frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}}{1-(v/c)^2}\mathrm{x}^{2}\\[4pt]
\tag{3.6}{x'}^2&=&\frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}}{1-(v/c)^2}\mathrm{c}^{2}\mathrm{t}^{2}-\frac{2v/c \cdot ct \cdot x}{1-(v/c)^2}+\frac{1}{1-(v/c)^2}\mathrm{x}^{2}\\[4pt]
\tag{3.7}{y'}^2&=&y^2\\[4pt]
\tag{3.8}{z'}^2&=&z^2\\[4pt]
\end{eqnarray}
より
\begin{eqnarray}
{s'}^2&=&-\frac{1}{1-(v/c)^2}\mathrm{c}^{2}\mathrm{t}^{2}+\frac{2v/c \cdot ct \cdot x}{1-(v/c)^2}-\frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}}{1-(v/c)^2}\mathrm{x}^{2}+\frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}}{1-(v/c)^2}\mathrm{c}^{2}\mathrm{t}^{2}-\frac{2v/c \cdot ct \cdot x}{1-(v/c)^2}+\frac{1}{1-(v/c)^2}\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2}\\[4pt]
&=& \frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}-1}{1-(v/c)^2}\mathrm{c}^{2}\mathrm{t}^{2}-\frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}-1}{1-(v/c)^2}\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2}\\[4pt]
&=& \frac{\mathrm{v}^{2}/\mathrm{c}^{2}-1}{1-(v/c)^2}( \mathrm{c}^{2} \mathrm{t}^{2}- \mathrm{x}^{2})+ \mathrm{y}^{2}+ \mathrm{z}^{2}\\[4pt]
\tag{3.9}&=& -\mathrm{(ct)}^{2}+(\mathrm{x}^{2}+\mathrm{y}^{2}+\mathrm{z}^{2})=\mathrm{s}^{2}\\[4pt]
\end{eqnarray}
以上のことから$\mathrm{s}^{2}$の値はローレンツ変換によって変化することがないという事が分かりました。
図3-1
ここで、”同時”ということについて考えていきます。簡単にするため、空間座標は$x$座標のみを考え、時間に光速をかけた$ct$軸を加えて、$(ct,x)$とします。${\rm x}$系において事象${\rm O}$、事象${\rm P_1}$と事象${\rm P_2}$という3つの事象を考えます。事象$O$は原点${\rm O}$$(0,0)$での出来事、事象${\rm P_1}$ は時間的領域内の世界点${\rm P_1}$$(ct_1 ,x_1)$での出来事、事象${\rm P_2}$は空間的領域内の世界点${\rm P_2}$$(ct_2,x_2)$での出来事を表します。事象${\rm P_1}$、${\rm P_2}$は事象${\rm O}$の後に発生したとします。3つの世界点${\rm O}$、${\rm P_1}$、${\rm P_2}$をローレンツ変換し、$x$軸正方向に速度$v$で運動している${\rm x'}$系において、${\rm O'}、${\rm P_1'}、${\rm P_2'}$になるとします。(点${\rm O}$は原点$(0,0)$であるため、${\rm O'}$も(0,0)であり、同じになります。)${\rm x'}$系の運動の速さ$v$を変化させると、${\rm P_1'}$、${\rm P_2'}$は${\rm x'}$系においてどのように移動するかを考えます。世界間隔$s$の2乗はローレンツ変換に対して不変なので、
\begin{eqnarray}
\tag{3.10}-(ct_1)^2+(x_1)^2&=&{s_1}^2\\[4pt]
\tag{3.11}-(ct_2)^2+(x_2)^2&=&{s_2}^2\\[4pt]
\end{eqnarray}
となります。事象${\rm P_1}$は時間的領域内での出来事であるため、$ct_1>x_1>0$を満たしており、${s_1}^2>0$、事象${\rm P_2}$は空間的領域内での出来事であるため、$x_2>ct_2>0$を満たしており、${s_2}^2>0$となります。よって$(3.10)$、$(3.11)$式の双曲線は図のように描けます。
図3-2
$ct_1>x_1$、$x_2>ct_2$を考慮し、ローレンツ変換の式を考えると、速度$v$が大きくなるにつれて、点${\rm P_1}$は双曲線の上を左に、点${\rm P_2}$は下に移動していきます。${\rm P_1}$は$v$が変化しても常に$t_1>0$であり、事象${\rm O}$の後に事象${\rm P_1}$が発生したという時間の順序関係${\rm x'}$系においても変わりません。しかし、${\rm P_2}$は$v$が大きくなるにつれて、時間軸の負の方向に移動していきます。${\rm P_2}$が$x'$軸上に来た場合$(t_2=0)$、事象${\rm O}$と事象${\rm P_2}$の発生は同時ということになり、$x'$軸よりも下の領域に来た場合$(t_2<0)$は、事象${\rm O}$よりも前に事象${\rm P_2}$が発生したということになります。すなわち、${\rm x}$系における時間の順序関係は${\rm x'}$系では保たれません。これは私たちの常識からするとありえないと感じますが、それは私たちが光速を超えない時間的領域で物事を考えているからです。光速を超えた空間的領域にある事象は、適当な速度で移動する座標系に移ることによって、同時にしたり、前に起こったことにしたりもできるのです。相対論では同時という概念は無意味であるといえます。