相対論への入り口


庭にあるリンゴの木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を思いついたという話で知られるニュートンは最も有名な物理学者の一人でしょう。 力の単位[N(ニュートン)]も彼の名前からとられました。彼は物体の運動を運動方程式という美しい式で書き表すことに成功しました。このとき彼は運動の様子を表すために時間と空間(長さ)を絶対的なものだとしました。これは物差しの長さは変わらないし、一秒はどこで測っても一秒であるという私たちの日常的な経験から考えられる時間や空間の概念を明らかにしたものです。 ニュートンが作りあげたニュートン力学は3つの法則から成り立ちます。ただ相対性理論について考えるとき、第三法則に関する話はしないため省略します。

第一法則 慣性の法則

物体は外から力が働かない限り今ある運動状態を続けようとする性質、慣性を持っています。この慣性をもつ物体が静止または等速で向きの変わらない運動をすることを慣性の法則といいます。そしてこの慣性の法則が成り立つまとまりのことを慣性系といいます。

第二法則 運動の法則 \begin{eqnarray} \tag{1.1}F=ma\\[6pt] \end{eqnarray}

式(1.1)は一般に運動方程式と呼ばれているもので、加速度は外力に比例していることを表しています。外から加わる力が運動の向きと等しいなら物体は加速運動します。(ex.落下運動)力の向きが運動の向きに逆らうならば、物体は減速します。(ex.摩擦)力が加わらないとき左辺が0なので当然加速度も0です。加速度がゼロだということは運動の様子が変化しない、つまり物体は静止あるいは等速直線運動をしています。これは第一法則が第二法則の特別の場合であることを表しています。 物体が静止しているか、あるいは運動しているかを判断するためにニュートンは基準となる座標系を作りました。それを絶対静止系といい、宇宙のどこかの完全に静止している慣性の法則が成り立つ系のことです。


ここで突然ですがあなたがの目も前にあるパソコンは静止していますか。おそらく静止して見えるでしょう。しかし、あなたもパソコンも地球上にあります。その地球は自転をしながら太陽のまわりを公転しています。そしてその太陽も銀河系の中心の周りをまわっています。したがってどこまで視野を広げたとしても静止していると判断できる系、絶対静止系は存在しそうにありません。自転や公転のように大きな規模の運動に対して私たちの身の回りにある運動は規模がとても小さいので運動方程式で十二分に記述できます。しかし、観測された天体の運動の中にはニュートン力学では説明できない現象もありました。つまり“絶対”静止系を基準とした運動方程式を用いることは、正しく天文現象を表すには十分ではありませんでした。これは特殊相対性理論に重力を組み込んだ形で拡張した一般相対性理論により説明されることとなります。アインシュタインが相対性理論の完成にこぎつけるための最初の鍵は『光』にありました。彼は、絶対静止系を否定し、いかなる慣性系を考えたときもすべての物理法則は同じように成り立つことを主張しました(“相対”性原理)。これは力学法則については成り立つことがすでに証明されていましたが、電磁気学や光学の基本法則であるマクスウェル方程式において成り立つためには光のある特別な性質が必要でした。
 光は質量を持たないために一秒で地球を約7周半するほどの自然界で最も大きい速度を持っています。この光速は私たちの日常の経験とは異なる性質を持っています。光の場合、速度は合成されることはありません。光の速さは$3.0×10^8m/s$で変化せず一定なのです。アインシュタインより前の時代は、光は絶対時間と絶対空間を用いて「光が進んだ距離÷それに要した時間」から求めることができる二次的なものと考えられていました。しかし様々な実験から光速はどんな慣性系でも速度は一定であることが分かっています。必ず(光速)=距離÷時間=(一定)となります。この式を満たすためには距離や時間が伸び縮みしなければなりません。つまりこれは観測者がいる慣性系によって物差しの長さや時間の進み方は異なるということを表しています。これによって光速度に近い運動はニュートン力学ではなく、特殊相対性理論によって正しく表されます。

図1
図1-1

【コラム】
人類が文明をここまで豊かに発達させる以前から人々は暦(時間をある単位で分けたもの)を必要としていました。なぜなら農耕文明が生まれてからというもの、洪水・種まき・収穫の時期を識別し、農作業を管理することが安定した生活に直結していたからです。基本的に1日は地球の自転周期を、1か月は月の公転周期を、1年は地球の公転周期をもとに決められていました。現在では昔よりずっと正確で誤差の少ない形、セシウム原子が9,192,631,770回振動する時間を1秒と定義しています。つまり、元をたどれば運動が時間によって定義されるずっと前から現在まで時間は運動によって定められているのです。よって光が光速度一定という運動を基準にしていることは特別なことではないのです。