AIはメダカを個別に見分けられます。

 めだか研から論文が公表されました。Googleが無料で提供する機械学習ツール(Teachable Machine)を用いて、ヒメダカを1匹ずつ区別できる人工知能(artificial intelligence; AI)を作りました。

 意外だったのは、横見ではなく、上見(背側からの見た目)で個体識別ができたことです。地べたで平面的に暮らすヒトとは異なり、魚(や鳥)は立体的に移動するので、水平方向(正面/側面/背面)だけでなく、垂直方向(上面/下面)にも個体識別に有効な情報が含まれるのかもしれません。

 それを我々が認識できないのは、単に「見慣れていないから」であって、黒人や白人の顔を区別しづらいのと同じ理屈と思われます。AIと同じように、メダカ自身が上見だけで個体を識別できるかは、今後の研究課題です。

 以下、舞台裏(余計な一言、二言三言)です。

 筆頭著者(長田さん)の卒業以来、約1年間放置され、お蔵入りになりかけていたこの研究が日の目を見ることができたのは、掲載誌(Hydrobiology)から「2024年4月30日までに投稿すれば論文掲載料(article processing charge: APC)を無料にします」との連絡が来たのがきっかけです。APCは、論文をOpen Access(誰でも無料で閲覧可能)にするために必要な経費ですが、とても高額で、赤貧のめだか研には大きな負担です。直近の例ですと、BMC Neuroscienceに3,069 USD = 約46万円を支払いました。

 Hydrobiologyを含む数多くのOpen Accessの科学誌を手掛ける巨大出版社が、Multidisciplinary Digital Publishing Institute(MDPI)ですが、巷で「ハゲタカ」と揶揄されることがあります。ハゲタカとは、「APCさえ払えば、どんなに質の低い論文でも掲載する」という意味です(参考)。それが事実かどうかは、世界中で色々な人が色々な検証をして色々な結論を述べていらっしゃるので、ここでは控えます。

 「そんな出版社から論文を公表してはダメだ/恥だ」との意見があるのですが、めだか研の論文がMDPIから公表されるのは、今回で2回目です。前回はGenesという科学誌で、APCは2,400 CHF = 約41万円でしたが、実はこれも免除していただきました。Hydrobiologyは創刊(2022年)から間もないからでしょうか、APCは1,000 CHF = 約17万円と安く、今回はこれが免除されました。

 ハゲタカと評されるMDPIが、このような1円も儲からない(手間を考えればむしろマイナスの)事業を行う理由は何でしょうか? 「投稿数が少なすぎて廃刊の危機だった」可能性もあるとは思いますが、ハゲタカビジネス(仮)とは別に「質の高い論文も掲載したかった」のではないかと、自分に都合よく推察しています。一流誌しか狙わないような大物に声をかけても相手にされないので、「そこそこの研究者」に声をかけて「そこそこの論文」を書いてもらいたい(ハゲタカの謗りを免れるために)。そんなアチラの思惑とコチラの懐事情が、ここ2回ほどマッチしたのだろうと解釈しています。

 これらを「ダメなこと/恥ずかしいこと」と評する方もいらっしゃるのかもしれませんが、個人的には、

  • 論文の価値は掲載誌で決まらない(良い論文はどこに載せても良い論文)
  • 発行部数に左右される紙媒体の時代とは異なり、Open AccessでPubMed検索の対象でさえあれば、どこに掲載されても多くの人の目に留まるチャンスはある
  • 事実として1円も払っておらず、お金の力で論文を載せたわけでも、ハゲタカビジネス(仮)に貢献したわけでもない(自画自賛論文を提供することで、間接的に加担した可能性はある)

と考えますし、実情として背に腹はかえられませんから、ありがたく無料のお申し出を受けた形です。ちなみに査読者は4人つきました。

 以上、あまり知られていないかもしれないと思いましたので、「MDPIは、真面目で貧乏な研究者が頑張って書いた論文を、きちんと査読した上で無償で掲載することもある」と記しておく次第です。

 もう一つの舞台裏として、今回初めて英文校正サービスを使いませんでした。これまでは、毎回必ず、海外の業者に数万円を支払って最終稿の英語を直してもらっていましたが、今回はChatGPTを使ってみました。細切れにchatするのは手間でしたが、一瞬で戻ってくる上に、校正者として非常に優秀でした。完璧な英文であるかどうか、保証はしてくれませんし、自分でも判定はできないのですが、語彙力や表現力に乏しい自分のカタコトワンパターン英語より、明らかに英語の質が向上したと感じました。

 驚いたのは、「最後に結論(conclusion)をお願いします」と前置きした後に、結論の英文をコピペし忘れてリターンキーを押したところ、それまでに校正してもらった序論・方法・結果・考察の内容を全て盛り込んで、結論をゼロから作文してくれたことです。この出来栄えが極めて秀逸で、自分が書いた文章と入れ替えようかと心が揺らいだくらいです。これが無料ってのは、恐ろしい時代だと思いました。実験して得られた生データ(画像や数字)を入力するだけで、論文が書き上がる日も近いでしょうか。研究テーマも決めてくれるかもしれません。研究者の存在意義が問われる時代です。