曲面と位相幾何

「曲面と位相幾何」では図形をフニャフニャと連続的に動かしても変わらない性質を学びます。図形はゴムのように自在に伸び縮みします。ただし、ハサミで切ったり、糊でくっつけたりしてはいけません。例えば、下の図は円盤をフニャフニャと変形しています。四方に伸ばして四角形にして、ねじったり、丸めたり、折ったりしています。あるいはプレス機にかけたようにおわん型にへこませて、さらに底をつついて尖らせています。こういうことをしても円盤と「同相」であると言い、位相幾何学的には同一の図形とみなします。幾何学と言うと、角の大きさや辺の長さを求める問題を高校までに習います。しかし、位相幾何学では長さや角度などは気にしません。それでもなお変わらずに残る性質、図形のつながり具合などを調べるのが位相幾何です。

全て同相な円盤たち 全て同相な円盤たち

何故そんな奇妙な数学が必要なのでしょう? 例えば、ありとあらゆる微分方程式を統一的に解く方法は存在しないことが既に証明されているのだそうです。ゆえに数学者は失業しないという系がおまけに付きます。フランスの数学者ポアンカレは解けない微分方程式の解の大雑把な性質を調べることを提案しました。例えば、3体問題は解けないことで有名です。3つの天体(星)が互いの重力に引かれ合ってどう動くかという問題ですが、これが一般には解けません。しかし、正確な軌道は分からなくても、将来2つの天体がぶつかってしまうのか、3つの天体がバラバラに離れて飛んでいってしまうのか、ずっと仲良く互いの周りをぐるぐる回っているのかくらいは知りたいでしょう? 力学系は位相幾何学の一分野ですが、そういう類のことを研究します。

3つの天体の行く末 3つの天体の行く末

「曲面と位相幾何」では主に2次元曲面を学びます。(線形代数に出てくる2次曲面ではありません。)球面や円盤はよく御存知でしょう。厚みの無い5円玉の形の曲面はアニュラスと呼ばれます。トーラスはドーナツの表面、あるいは浮き輪の形の曲面です。ただし、浮き輪にはフリルが付いていてはいけません。二人乗りの浮き輪はダブルトーラスと呼ばれます。どこかで売ってるかな?メビウスの帯は表と裏の定まらない曲面として有名です。裏表無しと言えば、クラインの壷のガラス細工もごくたまにお店で見かけます。こういう曲面を向き付け不可能曲面と言います。

様々な2次元曲面たち 様々な2次元曲面たち

さて、これらの曲面たちは一つ一つ違うものですね。どうフニャフニャ動かそうとも、円盤がアニュラスになったりしませんよね!? でも、その当たり前のようなことを疑うのが数学です。オイラー標数を用いると、これらの曲面が違うものであることを明確に証明できます。オイラー標数は曲面を下の図のように円盤と同相な幾(いく)つかの多角形を貼り合わせたものとみなしたとき、頂点の数−辺の数+面の数によって計算されます。例えば、左下の図のアニュラスは4つの三角形に分割されています。オイラー標数は 4-8-4=0 です。また、右下の図では1つの四角形と2つの三角形に分割されています。オイラー標数は 4-7+3=0 で変わりません。実は一般に、オイラー標数は曲面の多角形たちへの分割方法によらず、曲面だけで決まることが証明されています。「曲面と位相幾何」では2次元曲面の分類を学びます。つまり、2次元曲面は無限種類ありますが、その全てを列挙して、それらのどの2つも同相でないことを証明します。

多角形分割 多角形分割
林研究室トップへ戻る