はじめに
はじめに
私達の研究室では、池や田んぼの底に生息しているミカヅキモを主な研究対象にしています。ミカヅキモも、光合成を行って自分自身の生活に必要な化学エネルギーを得ています。つまり最も単純な植物なのです。
ヒメミカヅキモの栄養細胞ミカヅキモにも、オスメスのような性がありますが、これらの細胞は、周囲の環境が悪化すると、お互いの存在を確認し、近づき、ペアを作ります。そして、最後に細胞の中身が混ざり合い、接合子という新しい細胞を作るのです。これが有性生殖です。作られた接合子は、乾燥、冬の低温にも耐え抜くことが出来ます。環境条件が回復すると、接合子から再びミカヅキモが生じてきます。こうして、ミカヅキモは冬になって田んぼに水がなくなっても、また春には増えることが出来るのです。冬になる前に種子をつくって春になるのを待つ陸上の植物と同じですね。
ヒメミカヅキモの生活環
それでは、ミカヅキモの二つの細胞は、どのように相手を見つけ出すのでしょうか? これまでの研究で、二つの細胞がそれぞれ認識しあうための性フェロモンが見つかってきました。周囲で環境条件が悪化し始めると、ミカヅキモは性フェロモンを周りに出して、自分とペアを作れる細胞をさがします。そして、うまく接合子を作ることが出来れば、厳しい環境を乗り切ることが出来るのです。この性フェロモンは、糖鎖を持つタンパク質であり、タンパク質を構成するアミノ酸配列の違いで、ミカヅキモは同種と異種を区別しているようです。
ヒメミカヅキモの性フェロモン
私達はこれまでの研究で見つけ出した性フェロモンを利用して、ミカヅキモの有性生殖メカニズムの解析を進めています。特に注目していることは、性フェロモンを受け取ると細胞はどのように反応するのかということです。この点について、植物生理学、分子生物学、生化学の最先端手法を用いて解析しています。
最近の研究で、ミカヅキモを含む接合藻類(ホシミドロ類)の仲間が、現在の陸上植物と最も近縁な藻類であることが明らかになってきました。では、多細胞の体を獲得して陸上に適応進化した植物と、何が同じで何が異なるのでしょうか? どのような遺伝子、または遺伝子制御系を獲得または喪失して、陸上環境への進出を果たしたのでしょうか? 私達は、ゲノム解読と逆遺伝学的解析により、植物が陸上進出を果たした遺伝的背景に迫りたいと考えています。