血液型と性格の話 - Genetic Background(4/5)

 第1回第2回第3回の続きです。筆者の周囲で「血液型と性格は関連しない」と主張する方々の言い分;

  • ヒトの性格が、たった4タイプに分類できるわけがない
  • 赤血球表面に糖を付加する酵素なぞが、性格に影響するはずがない
  • 血液型と性格の関連は、日本人が騒いでいるだけで、欧米では話題にもならない

の3つ目についてです。「欧米が話題にしないから関連は無い」という衝撃の論理展開に対して、「そんなに欧米はありがたいですか?」と吐き捨てたくなるのはさておくとして、この話が本当かどうか、自ら調査した経験は(ちょっとしか)ありません。「騒いでいるのは日本と韓国だけ」との噂は聞いたことがあり(「혈액형에 관한 간단한 고찰」は面白い漫画でした)、実際、韓国人(n = 1)は「そうだよな! 関連あるよな!」と食いついてきましたが、中国人(n = 1)は「なにそれ。知らん。」の塩対応でした。イギリス人(n = 2)は「俺ら、当てはまってるな!」と興味深そうに聞いてくれました。

 Genetic backgroundは「遺伝的背景」と直訳されます。黒人が黒人っぽいのは、黒人の特徴(肌色、髪質、体型など)を表すための対立遺伝子、すなわち黒人集団に特徴的な遺伝的背景、を持つからです。白人が白人っぽいのも、白人集団に特徴的な遺伝的背景を持つからです。

 同様に、大和民族には大和民族の、朝鮮民族には朝鮮民族の、漢民族には漢民族の遺伝的背景があり、それぞれ異なる対立遺伝子を持つので、それぞれに異なる遺伝的特徴を示します。大和民族と最も近縁な民族は朝鮮民族(とアイヌ民族)であり(参考)、互いによく似た遺伝的背景を持ちます。一方、黒人や白人の遺伝的背景は、大和民族のものとは大きく異なります。

 遺伝的背景が異なる場合、同じ遺伝子が同じように機能するとは限りません。例えば、A型やB型の酵素が機能するには、基質である「H抗原」と「糖」が必要です。そのため、仮に「H抗原を持たない」という遺伝的背景の集団がいるとすると、A型やB型の酵素を持っていても機能しませんから、A型にもB型にもAB型にもならず、全員がO型(ボンベイ型)と判定されます。

 同様に、遺伝的背景(何らかの遺伝子)が原因で毛が生えない集団がいるとします。この集団では、毛に色をつける遺伝子は機能できません。黒髪の対立遺伝子を持っていようが、金髪の対立遺伝子を持っていようが、全員等しくつるつるです。

 このように、ある遺伝子が正常に機能するには、他の遺伝子(遺伝的背景)による「お膳立て」が整っている必要があります。適切な環境が整っていない場合、その遺伝子は全く機能しないか、機能が異常に低下/上昇するか、あるいは本来とは異なる機能が現れる場合もあります。

 前回ご説明した「ABO遺伝子にヒッチハイクする性格遺伝子(仮)」についても同じことが言えます。この性格遺伝子が正常(あるいは異常)に機能するための環境が、大和民族と朝鮮民族では整っていて、より遠縁の漢民族や黒人・白人では整っていない、という状況は、普通に考えられます。加えて、「特定のABO対立遺伝子と特定の性格対立遺伝子」が、大和民族と朝鮮民族では連鎖するけれども、他の民族では連鎖しない(組み合わせが異なる/決まっていない)、という遺伝的背景の違いも存在し得ます。

 このように考えると、「(大和民族と朝鮮民族が多数派を占める)日本と韓国だけで血液型と性格の関連が騒がれる」という現象は、決して不自然なことではなく、むしろ必然です。「欧米が騒がないから日本で騒ぐのはおかしい」との主張が、いかに非主体的で卑屈な、悲しむべき精神構造を反映しているか、ご理解いただけるのではないでしょうか。よそはよそ、うちはうち。それぞれ事情が異なるのです。

 ただし、この説についても前回のgenetic hitchhiking同様に、「自称遺伝学者が都合の良い理屈を並べただけのファンタジー」に過ぎず、実データによる裏付けは何一つありません。それでも、この可能性を完全に排除できる証拠は、現時点では示されていないと思います。これも「血液型と性格に関連は無い」と断言することを筆者が躊躇する理由です。

 「あとがき」に続きます。