血液型と性格の話 - Genetic Hitchhiking(3/5)
前回、前々回の続きです。筆者の周囲で「血液型と性格は関連しない」と主張する方々の言い分;
- ヒトの性格が、たった4タイプに分類できるわけがない
- 赤血球表面に糖を付加する酵素なぞが、性格に影響するはずがない
- 血液型と性格の関連は、日本人が騒いでいるだけで、欧米では話題にもならない
の2つ目についてです。個人的には、その先入観こそ危うく感じますが、それはさておき、筆者も「ABO遺伝子によって作られる糖転移酵素が性格に影響する」と主張したいわけではありません。以下、順を追って説明します。
まず一般論として、「性格を決める遺伝子」は存在します。当研究室で飼育するメダカにも性格があり、餌をあげる時にワラワラ寄ってくる系統もいれば、反対側の隅っこでブルブル震えている系統も、パニックで滅茶苦茶に泳ぎ回る系統もいます。これらの(行動から読み取れる)性格が、先天的に決まっているか、後天的に獲得されるか、両者の複合的なものか、を調べた研究はまだ無いと思います。しかし、メスに暴力的なオスもいれば、そうでないオスもいますし(参考)、見慣れないオスを警戒するメスもいれば、誰彼構わず受け入れるメスもいて(参考)、これらの原因となる遺伝子(ここでは性格遺伝子と呼びます)は既に解明されています。確かに「遺伝子は性格に影響する」のです。
筆者が指摘したいのは、「このような性格遺伝子が、ABO遺伝子に連鎖する可能性」です。
ここで、遺伝学用語の「連鎖(genetic linkage)」について、説明が必要な方がいらっしゃるかと思われます。遺伝子は、DNA(あるいは染色体)という、長い糸のようなものに並んで存在します。この状態を「連鎖」と言います。また、細胞中には染色体が何本かあり、別の染色体に存在する遺伝子もあります。この状態を「独立」と言います。遺伝子が親から子へ受け渡される際、連鎖する遺伝子(正確には対立遺伝子)は一緒に遺伝しやすくなり、独立の場合はそうとは限りません。
ここで長めの余談ですが、どういうわけか、高校の生物では「遺伝子(gene)」と「対立遺伝子(allele)」を区別しません。日本語は似ていますが、英語は全く別の単語で、意味も明確に異なるため、本来は「ABO遺伝子には3種類の対立遺伝子(A, B, and O)がある」のように使い分けます。「3種類の遺伝子(A, B, and O)がある」とは言いません。同様に、教科書に太字で載っている「遺伝子頻度」も聞き慣れない言葉で、通常は「対立遺伝子頻度(allele frequency)」を用います(gene frequencyを同じ意味で使うこともあるようですが、痴呆気味の筆者にはお目にかかった記憶がございません)。教科書を作っている方々が知らないわけはないのですが、どんな意図でgeneとalleleを一緒くたにされているのか、お話を伺ってみたいと、ここ15年ほど思っております。
話を戻します。仮に「ABO遺伝子と性格遺伝子(1つとは限りません)が連鎖」するならば、「特定のABO対立遺伝子と特定の性格対立遺伝子が連鎖」する可能性があります。A型の対立遺伝子には〇〇な性格の対立遺伝子、B型の対立遺伝子には△△な性格の対立遺伝子、などです。これらの「対立遺伝子の組み合わせ(haplotype)」は一緒に遺伝しやすいわけですから、その結果「特定の血液型と特定の性格が一緒に遺伝」しやすくなります。
このように、連鎖する対立遺伝子が一緒に挙動することを「genetic hitchhiking」あるいは「ヒッチハイク効果」と呼び、これが原因となって、互いに無関係と思われる事象が一緒に遺伝することがあります。筆者が「血液型と性格の関連を容易に否定しない」のは、これが主な理由です。
なお、説明が長くなるので省きますが、「組換え」という遺伝現象によって、対立遺伝子の組み合わせ(ヒッチハイクの相手)が変化することがあります。これが起こると、もはや特定の血液型と特定の性格は一緒に遺伝しません。そうです。「○型っぽくない◯型の人」の誕生です。
以上を宴会中に力説すると、大抵は(ゲンナリしたお顔で)「なるほどね?」とおっしゃっていただけるのですが、残念ながら現状は「遺伝学の知識を動員して屁理屈気味に捻り出した可能性」以上のものではありません。実際にABO遺伝子と性格遺伝子が連鎖するか、自分でヒトゲノム配列を眺めたことも文献を調べたこともありませんし、ABO遺伝子座周辺における組換え頻度やhaplotype blockの大きさも知りません。机上の空論ですらない、頭中の妄想です。眉に唾をつけながら、「そんな可能性もゼロではないのかもしれない」とご笑納いただく価値があるかどうか、慎重にご判断ください。
それはともかく、genetic hitchhikingのネーミングセンスが素晴らしいと思います。Shotgun sequencingとか、chromosome walkingとか、外国の方は的確かつ洒落た名前をつけるなあと感心します。
続きます。




血液型と性格の話 - Genetic Background(4/5)