NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の「らんまん」が、視聴率も上々でなかなか好評のようです。この作品のモデルは植物学者の牧野富太郎博士、生涯で1,500種以上もの植物に学名を与えた、日本植物学の父と称される人物です。牧野先生といえば、今も売れ行き好調の「牧野日本植物図鑑」が有名です。この図鑑が形を変えながらも今なお出版され、人々に愛され続けている理由、それは牧野博士の精密なスケッチが写真を超えるクオリティーだからでしょう。
当学科の生体機能実験室には、我らが誇る顕微鏡システムがあります(図1)。研究者仕様の顕微鏡がずらりと40台並んでいて、1年生から一人一台使うことができ、顕微鏡画像をデジカメで撮影することもできます。しかし、私の担当する生物学概論実験I(1年次前期)では、デジカメ撮影と並行して、必ずスケッチもすることにしています。どうしてだと思いますか?写真はありのままの姿を捉えるのだから、スケッチなんて必要ないと思われるかもしれません。しかしスケッチは、写真では隠れてしまう真実の姿を伝えることができるのです。以下は、私が生物学概論実験Iのテキストに載せている文章です。
「奥行きがあり焦点(ピント)が1点にあっていない試料の場合、見えたままだけでなく、微動ハンドルを動かしながら全体の構造をよく理解して描くようにしてください。細胞内には様々な構造が存在しますが、ピントをずらしてみると奥にはまた別の構造が隠れているかもしれません。スケッチは、見えたままを写真のように写しとるというよりは、事実を記録したり伝えたりするために写真よりも優れている面もあります。」
花びらが本当は5枚なのに、4枚しか写っていない写真を図鑑に載せたら、誤解を与えてしまいますね。染色体が10本あることを伝えたいのに、9本しか写っていない写真ではダメですよね。伝えたいことを正確に伝えるために、近年の論文であっても、写真と共にスケッチが添えられていることがあります。ということで、学生の皆さんには、スケッチにも前向きに取り組んでいただけることを願っています。
さて、牧野先生には遠く及びませんが、私の描いたスケッチを載せておきましょう(図2-4)。大学2年生の時の作品です(ちょっと濃い目です)。
2023.10.3 永田典子
図1 生体機能実験室
図2 ゼニゴケ雌器床の縦断面(1989年10月3日)
図3 ウロコゴケ(1989年10月24日)
図4 スギ花粉(1989年12月12日)