「鳥のさえずり:性差の典型例?」
「鳥のさえずり」について、皆さんはどのようなイメージをおもちでしょうか。春の訪れを感じさせてくれるウグイスの「ホーホケキョ」?それとも、リラックスに有効なBGMでしょうか。
ウグイスなどスズメ目鳴禽亜目の多くの種において、オスによるさえずりは、メスに対する求愛の信号です。さえずりは、動物行動学の教科書には、性選択による性的二型の例として登場します。より複雑にさえずるオスをメスが選ぶことによって、さえずりが音響学的に複雑な信号へ進化したと考えられています。また、大脳のさえずりに関わる領域には性差があり、神経科学の教科書には、大脳における構造上の顕著な性差の例としてとりあげられます。けれども、さえずり行動の性差は温帯に生息する鳥類種を対象にした研究に基づくものであり、熱帯の鳥では、メスがオスと同様にさえずる種が少なからずみられます。アフリカ産のヤブモズの一種では、つがい関係にあるオスとメスが、あたかも1羽の鳥がさえずっているかのように互いの発声を正確に同調させ、見事なデュエットで自分たちのなわばりを防衛します。このようなデュエットが熱帯に生息する多くの種にみられることが鳥類学研究者の間では知られていたものの、「さえずり行動は性的二型の典型例」として長い間注目され続けていました。一方、メスのさえずりへの注目は少しずつではあるのですが高まり、鳴禽亜目の共通祖先ではメスもさえずっていたことを示唆する興味深い研究が報告されました。世代交代を繰り返すような長い時間が経過したとき、メスがさえずらなくなった分類群、メスがさえずりを続けた分類群がある。この違いに、どのような要因が関わっているのでしょうか?今後、解き明かされるのが楽しみなクエスチョンだと思います。
さて、鳥のさえずりは、ヒトの言語を理解するための生物モデルでもあります。言語能力や言語に関わる脳の性差については関心が高く、多くの研究がなされてきました。近年、言語に限らず性差研究は、再現性を高めるためにより厳密な研究計画とその実施が求められています。厳密な研究により明らかにされた生物学的性差は、性差医療や女性の健康増進にますます重要になるでしょう。日頃私の周りでは、女子学生たちが授業での実験や論文作成のための実験にいそしんでいます。実験を行い、結果をまとめることにより、事実を静かに見つめ、科学的に物事の本質をとらえる力を養うことができます。科学教育を受けた学生さんたちが、人間の生物学的性差を正しく認識し、問題があれば冷静に取り組むことができますように!


