「大学で有機化学を学ぶ:アルコールの酸化反応を例に」
アルコールの酸化反応は、私の研究においてライフワークとなっている。アルコールの酸化反応は最も基本的な反応のひとつであるので、有機化学を学び始めると早々に登場する(Fig. 1)。高校化学では、第一級アルコールは、酸化剤により酸化されるとアルデヒドになり、さらに酸化されるとカルボン酸になる。第二級アルコールは、酸化剤で酸化されるとケトンになると学ぶ。大学の有機化学になると、どんな試薬を使って、反応はどのように起こるのかを学ぶ。高校から習う反応ではあるが、どのように起こるのかというところまで理解するのは意外と難しい。そこで、私は、本学科の1年生向けの「有機化学入門」という講義において、「アルコール酸化反応とは何か」を伝えるために以下のような試みを行っている。

酸化とは、もともと「酸素を受け取る変化」、もしくは、「水素を失う変化のこと」をいい、現在では、より広く定義するために「原子(もしくは物質)が電子を失う変化のこと」とされている。第一級アルコールからアルデヒド、もしくは、第二級アルコールからケトンへの酸化では、水素を2つ失う、アルデヒドからカルボン酸への酸化では、酸素原子が加わる(Fig. 1)。これらの変化は、古くから言われている定義と同じであるので酸化反応であることは分かりやすい。しかし、反応がどのように起こるのかまで理解するには、アルコールの酸化反応が「電子を失う変化である」ことを理解することが重要となる。
私が行っている試みというのは、以下の通りである。第一級アルコール(RCH2OH)とアルデヒド(RCHO)、第二級アルコール(R1R2CHOH)とケトン(R1R2C=O)を、点電子構造で書いてみる(Fig. 2)。このように書くと第一級アルコールや第二級アルコールには、点で示される電子が14個あることが分かる。これに対してアルデヒドやケトンは、電子が12個であることがわかる。この差の2電子分が酸化剤によって奪われる失われる反応という事である。例えば、代表的な酸化剤であるクロム酸や二クロム酸カリウムは、6価クロムCr(VI)であり、アルコールから電子を2つ奪って4価のクロムCr(IV)になる。アルコールは、酸化剤に2電子奪われるとアルデヒドやケトンに酸化される。このように考えると、酸化剤というのはアルコールから2電子を奪うことができるものというイメージを持つことができるのではないだろうか。(アルデヒドからカルボン酸への酸化は、水和を考える必要があるのでここには書かないが、同じように2電子が奪われる反応である。)

電子のやり取りで理解することが、アルコールの酸化反応の深い理解へとつながる。この考え方が合わない例外もあるが、多くはアルコールから2電子が奪われる反応と考えると理解できる。例に出した6価クロムは、毒性の高い試薬であるが、近年は、より安全で、廃棄物の少ない酸化剤による反応への置き換えが進んでいる。より安全で環境にもやさしいものを使って、どのようにしたらアルコールからうまく2電子を奪うことができるかを考えることが研究の第一歩になる。



