「化学と生物と有機化学」
阿部の専門は『有機化学(狭義では有機合成化学)』である。私は『有機化学』は『化学』と『生物』の間に存在する分野であると考えている。そもそも『化学』も『生物』も『自然科学』に含まれる分野である。『自然科学』は、「自然」といわれる身の回りに存在する、物質、生物、現象などを対象として、それらを追求する学問であり、『自然科学』の対象があまりにも広いため、高校では『物理』『化学』『生物』『地学』の4種に分けて学習するようになっている(そしてそれら4つのうち幾つかを選ぶことになるため、各人の好みによって学習する科目が選択されているのではないだろうか)。1つの分野を無理やり区切っているため、これら4つの科目に明確な壁があると考えるのは不自然であろう。そのため、その境目にはどっちつかずのグレーゾーンが存在して然るべきであり、『化学』と『生物』の間のグレーゾーンに含まれている分野の1つが『有機化学』である、というのが私見である。以下に私見を綴るが、あくまでも阿部の個人的見解であることをご理解いただきたい。
私がグレーゾーンと見ている『有機化学』とはどのような分野であろうか。文字通り、有機化合物に関する学問分野であり、有機化合物の構造や性質、合成そして反応について学ぶ科目である。ではその有機化合物とはどのようなものか?「有機化合物」とは「炭素を含む化合物」の総称である(元来、「有機体」とも呼ばれ、生命を起源とする化合物、すなわち生命体が作り出す物質であるとされていた)。非常に多種類の有機化合物が存在するため、『化学』の中では、炭素と水素のみからなる「炭化水素」、ベンゼン環を含む「芳香族化合物」、そして「酸素を含む化合物」「窒素を含む化合物」などと構成原子の種類や性質により分けて学ぶように編成されているのがほとんどである。そして、糖類やアミノ酸・ペプチド、そして核酸など高分子化合物へと学習を進めていくことになる。
ここで高校で学ぶ『生物』の内容をみていく。『生物』は、人間をはじめ、動物・植物・微生物など多様な生物の生命現象を学ぶことから、健康・食物・環境にかかわる日常生活に密接した有益な学問である。その『生物(生物基礎)』の教科書には、多様な生物にみられる共通性として「細胞膜をもつ」「DNAをもつ」「エネルギーを利用する」「自分と同じ構造をもつ個体をつくる」「体内の温度を一定に保つ」と記載されている。これらは一見『化学』とは全く関係のない内容に思われる。が、その詳細を「細胞膜って何?」「DNAってどういう物質?」「エネルギーってどこでどう作られるの?」などと紐解いていくと、細胞膜はリン脂質などの脂質を種とする二重膜で・・・、DNAとはデオキシリボ核酸の略で・・・、ATPはアデノシントリリン酸という物質で・・・、タンパク質とはアミノ酸が・・・、と化学物質の名称に行き着くことになる。それらは『化学』の終盤で学ぶ高分子化合物であり、そして「炭素を含む化合物」である。この高分子有機化合物の働きによって引き起こされる生命現象を学び、その謎に迫るのが生物学であると言えるのではないか。
これらのことから、高分子有機化合物の構造や性質などについての内容は『化学』の範疇であり、その応用は『生物』の分野となるため、『有機化学』はその一部が『生物』にかかっている科目であるというのは間違いのない事実であろう。このように、
『化学』『生物学』どちらの分野を追求する上でも『有機化学』は重要な分野である。
という、自身の専門分野の重要性を記して、このコラムを締めさせていただく。
次回は『化学』における『有機化学』に関する私見を述べたい。




