「実験動物としてのメダカ#1」
メダカを知らない日本人は、相当に珍しいと思われます。自然界では絶滅が危惧されるものの、童謡に歌われ、義務教育の教材に採用されるなど、日本人にとって大変身近な生き物です。近年では「改良メダカ[図1]」が人気で、ヒレがフサフサした品種や錦鯉のようなまだら模様の品種などが作出され、1匹で100万円を超える値段がつくこともあるそうです。
生物学は「生き物」について学ぶ学問です。細菌からヒトまで、地球上には多種多様な生き物が存在しますので、一人の人間がすべてを完璧に理解することは困難です。そこで生物学者は、自分の目的に応じて特定の生き物を選んで研究に用います。栄養価の高い野菜や美味しいお肉の開発など、農学的な目的には商用価値の高い生き物(トマト、ウシなど)を[図2]、病人を救う薬剤や治療法の開発など、薬学・医学的な目的にはヒトに近い生き物(マウス、サルなど)を用います。農学や薬学・医学(あるいは工学)は応用科学であり、「ヒトの生活を豊かにする」ことを目的とした学問です。
一方、理学は基礎科学と言われ、将来的なヒトへの応用を見据えることはありますが、根源的には「世界を知る」ことを目的とした学問です。世界とは、生物も非生物も、深海も宇宙も、神(仮)も悪魔(仮)も含む「この世の全て」です。これは果てしのない道のりであり、今この瞬間も世界中の理学者がそれぞれの疑問を解決するために研究に勤しんでいます。
四流(五流?)理学者の端くれを自認する筆者も、研究室の学生や院生の力を借りながら、日々メダカの研究に取り組んでいます[図3]。無数に存在する生物種のうち、なぜメダカを選んだか、メダカを使って何ができるか、何回かに分けて、このコラムにて私見を綴らせていただこうと思います。ご意見・ご要望があれば、こちらからお寄せください。