定年退職にあたり:「風に吹かれて」
食物学科 佐藤和人
私たちひとりひとりがこの世に生をうけたのは生物学的には奇跡に近い確率であり、人生そのものはほんの一瞬かもしれません。しかし、その人生の中にはいろいろな出会いや転機があります。私にとって日本女子大に奉職した1994年が大きな転機となりました。私は鹿児島県姶良郡(あいらぐん)に生まれました。出身地が「姶良」のためか女子大に縁があり、母校(東京医科歯科大医学部)から東京女子医大を経て日本女子大に勤務することになりました。27年前の事ですが、新たな環境で自分を試してみたいという気持ちと、栄養という視点から専門領域であるリウマチ(自己免疫)を見直してみようと、私にとっては大きな決断でした。私たちの体を構成している60-70兆個の細胞の構造や機能が食によって制御されているにも関わらず、免疫との関わりについてはわからないことだらけでした。その後を振り返ってみると、「風に吹かれて」過ぎたあっという間の時間でしたが、皆さんや皆さんの先輩とのかけがえのない時間を共有できた貴重な時間でもありました。私の在任中にも食物学科から多くの有為な人材が巣立っていき、社会で生き生きと活躍しています。皆さんにはこれから多くの出会いや転機が訪れると思います。その日、その時の縁を大切に、自分自身の人生を思う存分楽しみながら切り開いていってほしいと思います。今年は日本女子大学創立120周年にあたります。創立者成瀬仁蔵は晩年(死の直前)に「信念徹底」「自発創生」「共同奉仕」の三綱領を残しています。私にとっても大切な人生における道しるべとなっています。表層的な技能や知識ではなく、まさに生きるための基礎となる力(地力)をつけるのが大学の教育だと思います。真の教養とは何か、基礎力とは何か、一見無駄と思えるような学問や研究もとても大切です。それを学ぶための時間が十分にあるのが学生時代だと思います。私は食物学科の教育の中で病態の理解、「なぜそうなるのか?」を大事にしてきました。人間の体についてはわからないことだらけです。「なぜそうなるのか、わかっていない」ことを知るのも大切です。これからも食に対する熱き思いと行動力のある女性が食物学科から育ってほしいと願っています。私は「風に吹かれながら」皆さんの健康とご活躍を祈っています。