緑もすっかり深いものとなり、早々にカキツバタは見頃を迎え、立夏という「夏」の一文字が入った節気を迎えて早速やる気になっているのか汗ばむことの多い日々、かと思えば激しい雨の日もあり、忌々しき梅雨前線の気配も薄々感じつつありますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
GWというエクセレントな連休も終了し次は夏休みまで大きい休みはないのかよというボヤきも聞こえる、どこか連休前より疲れ果てた教室内。今は土曜日なのに来週の月曜日を迎えるのが今から気が重い。いかに夏休みまでモチベーションを上げ続けるか、それをさらにどれだけ上げるかが勝負どころだと思っております。学生同志よ、互いに頑張りましょう。
月曜日といいますと、来週の月曜日は四年ぶりの賀茂祭(葵祭)でして、私も先輩と「葵祭楽しみだねー」と実に一ヶ月前から言いあい、正直この賀茂祭こそ一年の中でメインイベントの一つと考えているほど楽しみにしております。青空の元無事開催されることを祈っております。雨予報だけど。
賀茂祭といいますと、ご存じの通り古典文学…主に平安文学では定番中の定番行事。私もそれこそ初めて存在を知ったのが『源氏物語』の車争いでして、御息所が可哀想なので最悪な初対面ではあったのですが、その後読んだ枕草子で清少納言の賀茂祭への熱意、それは素晴らしく。祭(=賀茂祭)のことが書かれている章、数多く。「他もいいけどとりあえずこれを見ろ」と耳元で言われているようで、そんなに推されると絶対に見なくてはという気になってしまい、以来賀茂祭をみることを人生でやりたいことの一つに挙げておりました。二十歳を前に叶えられそうで何よりです。
今年は上皇上皇后両陛下もいらっしゃるそうで、本当に晴れていただきたい。ちなみに御禊の儀は晴天のもと、ちょっとだけ混雑しておりました。寝坊して正面から見れなかったのが少し悔しかったです。
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さて、今回は同志社大学宮廷文化センターさん主催の『薫物「盧橘」作りワークショップ』に参加させていただいた件についてお話ししたいなと思います。
すっかり書くのを忘れていたのですが、今私は国内留学中で、東京を離れ上洛し、同志社女子大学さんに交流学生として身を置いています。このことについてはおいおい書いていくので今はそんな制度あったんだへーぐらいに思っておいていただけたら嬉しいです。ただ、今このお話をする為に知っておいてほしいなあというのは、とてもありがたいことに交流学生でも正規の学生さんとほとんど同じ待遇をしていただける、ということで、博物館や美術館の学割もあれば、学内イベントも参加できるのです。今回の『薫物「盧橘」作りワークショップ』も「同志社大学・同志社女子大学の学部生および大学院生」が対象でして、もちろん交流学生も可!
ということで行ってまいりました。行く以外の選択肢が日本文学科の人間としてはありませんでしたね。
実はこのワークショップが楽しみで楽しみで、このことを書きたくて書きたくて、ずきさんに「十三日か十四日の担当にさせてください…。」と図々しく頼み込みまして、十三日担当にさせていただいたという裏話もあったりします。ずきさん、ありがとうございました。
さて、この『薫物「盧橘」作りワークショップ』。今出川家の当主が自筆で書き写した可能性があると言われる『薫物秘蔵抄』一巻に記載されているレシピを参考に、練香をみんなで作りましょうという内容でした。
まずはじめに使う香原料を嗅がせていただくところからスタート。その後古事記に出てくる多遅摩毛理(田道間守)と非時香菓について、日本に古来から存在する柑橘類についてご解説いただき、非時香菓とは何を指すかを考えながら、橘は場所の違うものを三種、他に近畿大学のコウジやダイダイ、キシュウミカンにユズの花々の香りを堪能させていただきました。これらがすごく良い香り!お持ち帰りしても良いですよ、とのことだったので特に気に入った橋本神社のタチバナ、近畿大学のコウジ、ダイダイ、ユズをお持ち帰りさせていただいたのですが、入れて帰った鞄が数時間経ってもなお柑橘の匂いを発しています。
そして練香作りがスタート。参加学生、総力戦です。香具の分量が重いものから順に乳鉢に入れて、混ぜ、均等に混じったものに水分の少ない蜜を投入、粘り気が出るまで乳棒で混ぜ続け、少量を手に取り、手のひらでコロコロしながら小さな丸を作っていきます。表面にテカリがあると良いらしく、例えが例えですが泥団子の小さいバージョンを作る感じ。丸くするのには手汗が少なく体温が高い人ほど向いているらしく、とても綺麗に作る人もいれば、諦めた人もいました。私もテカリは諦めてました。丸まったらもう出来上がり。簡単に聞こえて、意外と混ぜるのも大変、さらにはなかなか綺麗に丸まらないので時間がかかります。プロの方は一度に七つ、同時に丸くするらしいです。すごすぎる。
途中、四国の方からお越しになった先生がレモンの皮が原料の香具と、それに実の要素も加わった香具の二つを私たちに分けてくださり、それらを練香に混ぜて新しい香りをつくる、というこれまた貴重な体験もさせていただきました。実も入った方は今日一甘くて良い香り。すると、新しい薫物だから名前をつけようということになりまして、各々が手のひらでコロコロ転がしながら雅な単語を思い浮かべ悩む中、「江戸時代からは浄瑠璃などから名前を取った例もあるのですよ」と言われ、上がったのは「じゃあ曽根崎とか?」「曽我兄弟…」。二つとも血の匂いがしそう、と盛り上がりました。今回のワークショップ、学生もとてもフレンドリーで面白い方が多く、マスク下では始終口角が上がりっぱなしでした。
出来上がった練香は古典らしく貝の中に入れて、お持ち帰り。とても楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
写真左上の方にあります貝に入っている黒い二つの丸が、今回作った練香状の盧橘。写真手前のお花が先程触れたお花の一部で、左から橋本神社のタチバナ、近畿大学のコウジです。お馬鹿なので蜜を入れる前の状態のものを袋に詰めたのに持って帰り忘れましたが、昨年度のワークショップで作ったという、小野通女ゆかりの「匂油」同志社大学の紅梅製をいただきました。毛先バサバサ民なので発表など、人前に出る時につけたいと思います。
練香、見たことない方は「え!これが!?」と思うことでしょうけれど、これが練香です。私もびっくりしました。香炉にセットせずとも、鼻を近づけるとしっかり良い香りがします。二百度くらいで熱すると良いですよ、とのことで、炭は少し怖いため先ずは電気の香炉を手に入れて楽しもうと思います。
水が合わなかったり料理しようと台所に立てば最高に不味いスープを製造してしまったり、ニュース645の時間がほっと関西、おはよう日本が途中で変わる、テレ東が映らないなどホームシックが常な日々ですが、このように「東京では出来ない、伝統的で自分の趣味にばっちりあう、心から面白いと思う」イベントやワークショップが京都には沢山あり、これが最近の生きる糧となっています。これからも沢山参加していきたいです。夏休みに帰省した際には「これ私たちが作ったんだぞ」「これが元カレだぞ」と自慢し嗅がせにまわりたいと思います。それから冬まで残るくらい沢山いただいてしまったので、着物に…というわけにはいけないでしょうけれど、なんらかの形で成人式にも持っていきたいものです。
この度は貴重な経験を与えてくださり、本当にありがとうございました。
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大学生になって一年と一ヶ月半、結構経ってしまいましたが、大学では授業以外にも沢山学びの機会があるなあと感嘆する毎日です。生涯学習センター、図書館のオンラインデータベース、ラーニングコモンズのイベントなどなど。博物館美術館は無料になったり割引がきいたりしますし、年齢的に国立国会図書館にも行けますし、シンポジウムは参加しやすくなるし、留学も。情報アンテナを常に張り、日程を一時間単位で整理し、選びに選び抜いて、それでも「あれ参加したかったー」と床をバコバコ叩く日も少なくはありません。超贅沢な悩みだなぁとは思いますが、この一ヶ月だけでも何度、どこでもドアか分身の術が使えれば良いと思ったことか。今ある本音としては今やってる対面の生涯学習センターの講座と七月十七日に鎌倉芸術館で開かれる講座にも参加したかった…。このように全部参加することは到底無理でしょうが、出来るだけ多くの企画におじゃまして、それらを通して沢山のことを学生時代のうちに学んでいきたいものです。