ごきげんよう、あやめでございます。
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おや、秋の足音がするようですね。昨晩はもこもこの布団を引っ張り出して掛けました。おとといは金木犀の香りが脳髄を満たすほど濃厚に香っていたのに、今朝にはもうオレンジの星の形をした花が洛星しておりました。冷え性の私は足先がツンと冷えて痛いほど。曇り空続きでカーディガンでは寒くて足早になってしまう、かと思えば天高く馬肥える、秋ですね。本日は筆が乗ったのでこの調子でお届けいたしましょう、秋が好きで、生まれは真冬、名前は五月晴れを連想させるごきげんの私、失礼、ごきげんを「とっている最中」の、あやめでございます。
どういうことか。簡単です。卒業論文執筆が進まなくて焦る気持ちと裏腹に、進まない筆のコントラストがキツいのであります。まばゆいばかりに光る締切日の目印と、私の、どんより進まない筆。モノトーンコーデであります。
そう言った具合に腹に一物、と言ってよいのだろうか、この気持ちも利用してやらんという貧乏根性を携え、無い袖を振ってとっておきの芸をして御覧に入れましょう。芸は、身を助くのです。
この軽くてよく回る口でべちゃくちゃ言っているうちは、三味線とセッションする落語くらいコミカルでテンポよく飄々と語り得るワケであります。これまでにないほど高速でタイピングする私の指先。きっとこういう文章を書く人間の出現頻度は低い、珍しい個体なンだ!という自意識を以て、そしてそれをぎりぎりの自己肯定感に変換して語ってまいりましょう。ラジオ好きはおられますか。私の軽口はラジオのワンコーナー。ラジオCMの茶番劇みたいなのが大好きであります。どうでもよいですな。
こんな具合の、私の遠近両用レンズ用いて、いま流行りの、「私なりの方法」とやらで世界を切り取ってきて、パッチワークしてつくった作品もどきをご覧に入れているわけであります。ほら、バルーンアートの実演販売みたいなイメージです。こんな無駄話していたら一本、できあがり、みたいな、ね?
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マ、この要領で普段は一人語りをたのしんでおります私ですが、本日はもう一人を設置してお話ししてみましょうか。私が実況なら、もう一人には解説をしていただきましょうか、そうなったら、実況は私、佐伯が、お相手はこの方、幼少期のちいさな私、佐伯‘(ダッシュ)とでもしましょうか?いやわかりにくい?記述式なのを良いことに、なんとか記述上の工夫を凝らしてみましょうか、なにはともあれ佐伯さん、よろしくお願いいたします。
幼少期私(以下、小):ハイ。よろしくお願いいたします。
現在私(以下、大):便宜上、私はあなたのことを「佐伯さん」とお呼びいたしますが、あなたもまた私のことを「佐伯さん」で大丈夫です。記述式なので混濁はありませんでしょう。おそらく。
小:ハハ、そうですか。承知しました。
大:さて佐伯さん。季節はすっかり秋ですね。今年の夏も「酷暑」が猛威を振るった非常オに熱い夏になりましたが。
小:いやア暑かった。私なぞは近所の川に散歩がてら行って、そのまま浮き輪で浮く、を週に5回はしましたよ。
大:オ、いいですね。なんとも涼やか。
小:イヤ、それがですね、川では苦い思いを散々いたしまして。来年からはいかないかもしれません。
大:おや。それはまた何が?
小:お忘れですか?「佐伯さん」。ふふ、これ面白いですね。あなたも私なのに。ヱ、近所の川は、無論、近所の子供らが集まりますから、なんとなくみんなで川遊び、ということになるんですが、しばらくすると普通に潜水したり水泳するのに飽きるのですね。あるいは友人がそばにいるのでちょっとだけ気が大きくなるのでしょうか。それで大きな岩の上から飛込んだりだとか、川岸にある草むらに上がって虫取りするとか、そういうトリッキーな遊びが続くンですな。私みたいなのはビビりでありますから、飛込んだりは怖いしイヤだったのですが、友人がどうしてもやるんだと言って、それに巻き込まれてしまいまして、飛込んだはいいんですけれど。
大:いいけれど?
小:友人や、その遊びを開発した別な子は、飛び込み慣れているようでしたが、私に限っては飛込んだ経験なんてありませんで、今回きまぐれで参加した初心者だったもんでしたから、着水の際に体のあちこちをこう、べちんと打ったんですね。痛いのでもうやりません。そしてどうあがいてもまきこまれるので、もう川にもいきません。
大:成程。あの頃の記憶が鮮明に浮かび上がってまいりました。この頃からすでに水辺であがる黄色い声に対する耐性みたいなものがまるでなかったことが明らかになりますね。
小:それに比べて秋っていうのは好きですね。
大:おや。佐伯さんは運動は苦手ではありませんでしたか。てっきり私、運動会があるので秋はイヤとおっしゃるかと。
小:良い着眼点です。もちろんそれには同意できますが、運動会っていうのは家族総出で観戦に来るものですから、豪勢お弁当が振舞われるのです。ござに座って祖父母と共に、大量の唐揚げをほお張るのが素晴らしいため、運動会は好きです。練習や準備でちょっと騒がしくなるのも、非日常体験ができるようで実は嫌いではありません。徒競走は無論ビリですが。
大:ハハハ、懐かしいですね。おや、そろそろお時間がやってくるようです。
小:佐伯さん。こんなところで足踏みしていないで、執筆、してください。
大:これは手痛い。敗因はどこにあると見えますか。
小:完璧主義でしょう。クオリティよりなにより、形にすることが先決でありますが、この調子だとまあ…よくて40mでしょうか。
大:思い出したように「解説」の役割を果たしてくださる佐伯さんでありました。ありがとうございます。ながれる穏やかな秋風と季節に抗してまいります。ここまで解説は佐伯さん、実況は私佐伯で参りました。ありがとうございました。
小:ありがとうございました。