こんばんは、あやめでございます。
今回は楽屋事情を夜らしく、コッソリお話しする回にしたいと思います。言い換えれば、「やりたいことは思い浮かんだけれども、締切に間に合わなかったんです」という言い訳の会であります。お付き合いください。
前回、小さい私と大きい私(佐伯と佐伯‘)によるラジオごっこをやってみて、たのしいなと思った私は、引き続きラジオごっこを考案しました。もう、10月31日のおばけの大祭は終わったのに、妙にポップでユニークな、哲学もどきを片手に珈琲嗜むマヌケおばけを語り手としたおばけラジオ、その名も「裏飯屋らじお」をはじめてみたく思ったり、小さい私と大きい私(今度は「佐伯」じゃない名前にしようと思います)による、前回みたいなほんわか会話劇ではなく、ペルソナをかけたバチバチのアイデンティティ争奪戦みたいなのを書いてみたいなと思ったりしました。これなら会話文生成が苦手な私でも書けるんじゃないかな!という期待を胸に。特に「裏飯屋らじお」はかなりあったまっていて、もうどんな工夫を凝らしたら、何度も読みたくなるんだろうかな、みたいな構成の案もバッチリあるのです。思わず「そういうことだったならもう一回頭から読み直さないとなぁ…」となる工夫。あんまりミステリーみたいなことはできないですけれど、なんちゃってでそれっぽくできないかな、などと案をもみもみねりねりしております。
おばけのイメージもあります。死因は溺死の、夏にうまれた(死んだ?)おばけです。ジャズで小躍りして、珈琲が好きで、きれい好きで、生前の体と記憶を文字通り?引きずって生きて…いない、死んでいる、おばけです。私の得意な「メタフィクション」の部分を活かして、曖昧な部分をザクザクかきたい。でも、そんな大層なことはできずに、ぐぬぬとなっています。ホテルのシーツみたいにまっさらな布片をすっぽりかぶった、足が生えたへんてこおばけ。こんなイメージをもって、長すぎる私の通学時間(往復3時間)でちみちみ草稿を書いていたら、まとまりのない掌編がわんさかうまれてしまい、編集作業が必要となりました。もうちょっと時間をかけて書いてみます。
今回は、導入編ということで、ボツにしようとしている(もしかしたら良いのが思いつかなくて、次回全くおなじ部分が登場するかもしれませんが…)頭の部分を掲載してみようと思います。
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こんばんは、ごきげんよう、神出鬼没。おばけは夜に出るものという先入観を破壊するわたくし、おばけであります。通勤ラッシュの地下鉄のなかからお届けいたします、午後六時、外気温14度、冷たい雨の大都会、東京の昼明けの時間です。人間の方向けに註釈。昼明けとは、「夜明け」のおばけバージョンです。長くてまぶしい昼が、漸く、終息しようとしております、その淡いの時間を喜ぶ気持ちと、人間プレス機に押しつぶされて、はやく実体を手放したい気持ちに、板挟みされる、アンビバレントでセンチメンタルな夜ですね。コーヒー片手に片手間でお聞きの親愛なる皆様に、恨み言を申し上げましょう、うらめしや。今晩の夢に化けて出てやりましょうね。Boo~
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「空」という字を見て、「青々と頭上に広がったそら」より先に「からっぽ」というイメージが先に立ちます。きっとそれは、私が下ばっかりみてとぼとぼ歩くからでしょう。空を見慣れていないかわいそうなおばけの私でございます。ごきげんよう。
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まよなかに目が覚めて、トイレに行きたくて部屋をこっそり抜け出した時、しょぼしょぼしてまだよくわからない脳みそでも感知できる寒さと、我が家なのに知らない匂いがふとかおってきて、はやく布団に戻りたくなりました。こんなに静かで、家族が寝ているはずのドアの向こうに、果たして本当に家族はいるのかしら。そこまで明瞭じゃないにしても、そんなようなことをぼんやり思って、それよりもっとはっきり寒いと思って、急いで布団に潜りました。努めて、もこもこの毛布の部分が肌に触れるようにして被って、地震が来た時にするみたいに丸くなって、もこもこして早く眠りにつくよう目をギュッと瞑り直しました。こんな晩は、決まってピッタリ1時間、眠れません。
シンとして、重たく冷たくなった空気が、耳の部分を冷やしていきます。鼻頭が冷たくなって、瞼が今にもまなこを冷気に晒しそうになります。なんとなく頭がいたくなってきて、指先が凍るほど冷たくて、はやくあったかくなるよう、もこもこの部分を体に巻き付けてみました。なかなかあたたまりません。かといって、わざわざ階下におりて布団乾燥機をとってくるのも、湯を沸かして湯たんぽをつくるのも、なんとなく億劫で、なにより寒いから動きたくなくなりました。この頃になると冷気で頭も冴えてきて、寝起きのしょぼしょぼも、もやもやも、なくなっていました。秒針の音が嫌だから、部屋にはデジタル時計しか置いていないのに、カチカチ、急かされる嫌な音がするようでした。
こうなったらもう、眠れないと観念して、枕元に置いておいた水のペットボトルを掴んで飲み下し、もこもこする上着を攫うように掴んで着込み、布団の端に追いやられたクッションを抱き寄せ、座ってみることにしました。カチカチ、はやっぱり空耳であったようで、今はもう、重たいくらいの沈黙が耳を塞いでいました。鼻から吸って、口から吐く深呼吸をすれば、頭の空洞の行き止まりのところまで、夜の深くて冷たい空気が満ちてきて、目尻から空気が抜けていくような気がして、何度か試してみました。実際にはもちろん、横隔膜のおかげで肺が膨らんで、縮むだけでしたが。
何もせず、何も考えず、ぼんやりできるのは、こんな夜だけです。オレンジ色の常夜灯がなんとなくノイズに感じて、ビビりのくせに電気を完全に消してみました。こんなタイミングで緊急地震速報が鳴ったりしたら、飛び上がる自信がある。チラッとそんなことを考えたら本当に鳴り出す気がしてスマホを伏せてみました。イヤになって、また布団に潜りました。
脈絡のない単語の羅列を聞くと、人は眠気を引き起こすことができるそうです。試しにやってみましょうか。水道水、餅巾着、アリゲーターガー、虎ノ門、最大瞬間風速、夜行列車、ハビタブルゾーン、手すり、コピー用紙、コッペパン、虫取り網、ポリエチレンテレフタラート、花道、ポケベル、一面広告、ソリティア、コンクリートミキサー車、野球帽、サインポール、イヤホンジャック、ミシシッピアカミミガメ、消しカス、たこ焼き。眠れません。むしろこれらになんとか脈絡をつけようと頑張ってしまうマヌケな脳みそがあります。眠るためにやっているのに。
もっと突飛な事を考えることにします。オレンジジュースの皮を破らないようにして飲む方法を考えるとか。夜の帳が何色をした何の生地でできたものなのかを考えるとか。何センチ進めば「進捗」といえるのかとか。「敦盛」が教えてくれる通り「人間五十年」なのかとか。生産終了する蛍光灯の代わりに設置する光源をなににするかとか。おっと、まともなことを考えそうになってしまった。満員電車で林立する足々が示すのは何の指標かとか。スマホを持つのは右手と左手、どちらがいいのかとか。むむ、少し照準がぼんやりしてきた。いいぞ。電車の扉の2つの窓が対なのは何故かとか。私はなぜ羊を数えないのかとか。億千万は末尾にゼロが何桁続くものなのかとか。明日の朝食はなににするかとか。よしよし、突飛さがおちてきた気がする。靴下だけでいるときも果たしてその履き物は「靴下」なのかとか。コルクはなぜコルクであって「クリケ」ではないのかとか。何故朝にならないのかとか。
そこで目が覚めた。何という悪夢だろうか。
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おまけ。蛇足。生まれた草稿にあわせて浮かんできたおばけのイメージ図を描出してみました。みなさんとイメージを共有する目的でかきましたが、絵はへたっぴなのでこう、勘弁してくださいね。

夜更かしする人間に比べて、圧倒的に早寝をするおばけになってみたいです。おやすみなさい。