字がめちゃくちゃ汚い側の人間なので、成績見る時「この科目筆記試験だったから読めたか危ういな」と心配になり、予想外に良いと「これ先生読むの途中で諦めたんじゃないかな」と申し訳なさでいっぱいになる、前期成績を受け取った私です。ノートを見ては人に見せられたものじゃないなーと思ってはいますけれども、自分の字が嫌い、とは言えず、ボールペン字教室通って直そうという気もありません。それには理由がありまして、非常に簡潔に言えば、愛着があるのです。
「そ」という文字は小学校では「z」と「て」の組み合わせのような形で書くように指定されます。私もある時まではそう書いていました。しかし中学生の頃、私はとある文学者と出会ってしまいます。彼は「そ」を「ソ」と「て」を組み合わせたような形で書いていました。ここからは気持ち悪い話です。真似しちゃったのです。「し」を「|」のように書くようになったのも、「と」を一角で書くようになったのも同じ理由。最初は憧れの一心で、意識して取り入れていたものですが、これを一年二年と続けているうちに、完全に癖となってしまいました。だいぶ飽き性で、これらの影響元が書いた作品はもうしばらく読んでいませんが、自分が書いたノートやメモでこれらの文字を見つけると、あの時の熱狂ぶりを思い出して、嬉しくなります。嫌いになれないのは「そ・し・と」の字があるからなのです。あの熱狂があったから、文学部に入って今京都にまで来ている訳ですから、愛おしく思わないでなんだという話です。
字をみれば人がわかると言います。整った字だときちんとした生活を送っている人なのだろうなと思う、ということでしょうが、そこからさらに一歩踏み込んで、どうしてこの人はこういう書き方をしているのかどうしてこの人はこの字母を多用しているのか趣味か家系的なものかも考えられたらその人の人となりがわかって面白そうなんだけど本人からカミングアウトしてくれないとわからないですしそもそもかなり人として気持ち悪いラインかも。うーん。
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字を見れば人がわかる、のならば、それの建物バージョンは何でしょうか。
私は自信を持って「個室トイレ」と答えます。さあ、食事中で抵抗ある方はバックしてください。
私の十代は行動範囲が狭めになりがちな年代でありながら、やけに行く先々で様々なトイレによく遭遇しておりました。川や鎖を引いて水を流す式のトイレから、超高級ホテルの煌びやかなトイレ、便器まで金色に輝いているトイレ、広すぎてなかなか辿り着けないトイレ、便器の高さが異様に低いトイレ、常に床が濡れているトイレ、水を流すレバーから水が永遠に漏れていて直さないトイレ、壁が極めて薄く衣擦れ音すら聞こえるトイレ、しっかり鍵を閉めても引き戸式なのが不幸いして下から扉が外れ、暖簾をくぐるようにして侵入可能なトイレ。しかもそれも学校や塾など今後しばらくお世話になるような場所のトイレがそれであったりするので、何よりも先にトイレを確認するようになったところ、トイレこそがその場所の本質を表していると考え始めたのです。
トイレは企業を見分ける最高のスポットであるという考えには理由が二つあります。まず一つめは、個室トイレ内は孤独になれること。家、ショッピングモール、コンビニエンスストア、塾や学校の教室も階段も講堂も、建物の中で一人になる瞬間はなかなかないものです。いつでも望めば建物と一対一で向き合える場所なぞ、殊に公共の場ではトイレしかないのです。大勢といると、雰囲気にのまれて見るべきものも見えなくなります。他人がいるからこそ見れるものもありますが、まずは己の目だけで見ることが肝心です。己の目だけとなると、一人になって、無駄な情報をカットする必要があります。それが比較的簡単に行える場所が個室トイレ内なのです。二つ目の理由は、トイレは現在、日本のサービス業、特にレストランやカフェ、ホテル、塾、学校など、利用者が一定時間を金を払って過ごす場所では、利用者に求められれば提供することが暗黙の了解となっており、提供する企業のサービス費にはトイレの分も含まれていることです。つまり何が言いたいかというと、トイレも、注文の聞き取りや料理の味、水・ワイン等のつぎ方などと同じ、企業側の魅せどころであるはずで、トイレがとても客を迎えられる状態でない時、それは利用者が招かれざる者であると企業が捉えていると考えられます。また、トイレはレストランのホールなどと違って、企業側の人間が在中せず、すぐに誤魔化すようなことが不可能です。故に企業側の利用者を迎える態度の「素」が、或いは企業側の人間も使うトイレならば、企業側の社員に対する「素」の態度が比較的見やすい場所とも考えられます。
では、トイレで具体的に何がわかると考えられるか。トイレとは無防備な状態になる場所なので、あらゆる設備の中でも最も利用者に安心感を与えるような場所でなくてはなりません。利用者が安心感を持つためには、利用者が感じるであろう不信感や不安感を想定し、それを取り除いたり対策を敷いた上で提供することが基本となってきます。ここから、企業側の、トイレの利用者を思いやる気持ちというものがトイレには反映されていると考えられます。また、前利用者のトイレの使い方から、その企業の客層も見えます。以上の理由から、この企業に自分の金や自分の時間や自分の未来を託しても良いか、トイレは全てを教えてくれます。引っ越し先決める時にコンビニエンスストアのトイレが解放されているかとゴミ捨て場を見ろって言いますよね、アレとちょっと似たようなものです。変な口コミサイトよりかなり信用できると考えております。
色々トイレ見てきて、やっぱり何よりもトイレは安心できる場所であることが一番だなと考えるようになりました。防音のためにも、それから誠にクソすぎてこの世から消滅してほしいものですが、覗きや盗撮などといったものの防止にも、扉を含める壁は天井から床スレスレまでしっかりあって、かつ分厚いものがいいですね。赤ちゃん椅子が扉の近くにあるなら、赤ちゃんの手がけして届かない位置にも鍵をつけておくべきでしょう。手すりも設置するべきですし、公共のものならばいざとなった時に誰か呼べるように呼び出しボタンを誰もがすぐに認知でき、腕を少し伸ばせば届く場所に設置してあると良いのかなと思います。広さは特に大きな駅のトイレは、スーツケースが持ち込めるくらいのスペースがあると嬉しいです。
アイテムの方に目を向けてみましょう。便器ですが、私は蓋付きの方が安心します。あれ、結構最後流す時閉めない人多いですけれども、飛び散るってわからないのでしょうか。いくら美人でスタイルが良い人でも、その人が出てきた後のトイレが蓋閉められていない状態だとげんなりします。そういう意味もあるので、便器の消毒もあると嬉しいですよね。今夏、泉鏡花記念館に伺った時、トイレに便器の消毒に便器に敷くシートが、どちらかで良いのに二つとも設置してあって、流石だなと関心しました。ちなみにこのトイレ、個室毎に手のアルコール消毒液もあります。そこまでとは言わずとも、便器の消毒液か便座シート、どちらかがあると安心です。ストックのトイレットペーパーも無防備な状態で置くのではなく、可愛らしく包装されて置いてあると個室の品格が上がってみえます。
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トイレ関係で、最近最も感心したことがあります。今、こうして慣れ親しんだ日本女子大学を離れ、同志社女子大学さんをはじめとした色々な大学で授業を受けに行き、その中でトイレを借りることもあるのですけれども、その中でびっくりしたトイレが一つあります。同志社大学さんのトイレです。といっても、とある館の一階にあるトイレなのですけれども。このトイレは扉の隙間が少ないことや、人目が多く犯罪が起こりにくい場所にあることなど、良いところが沢山あるのですが、何よりも素晴らしい点とは、無料生理用ナプキンが個室毎に大量にストックされていること。「必要な方はお使いください」と書いてあり、誰でももらえることができます。これ、初めて見ました。ここでしか見たことがありません。やべ!来やがった!今日持ってくるの忘れた!と思えばすぐにもらうことができるのです。トイレから一度出て百円払って買って〜の手間も要りません。アプリの登録なども要りません。最高です。箱に書いてあった「MeW Dispenser」を調べてみると、こちらのサイトが出てきました。
https://mewproject-osaka-u.jp/
大阪大学さんが主体でやっているものだそうです。このような取り組みがあるとは、なんだか救われた気がします。生理って毎月来やがるし花粉症より害悪なのに生理用品は高くて、ようやく買えたりたっっっま〜〜に大学が配給してくれる時があっても、いざその時持ってないと意味はなくて、くっそこのヤロ〜〜!!!と個室内で空間に向かって怒る人、多いと思います。デパートなどは難しいかもしれませんけど、大学なら高い学費も出してることだし女子大学こそ、このプロジェクトのような取り組みを是非やってほしいものです……。
これでトイレ話は最後にします!トイレといえば日本女子大学も今夏、トイレを一部リニューアル改装したとのことです。ジェンダーレストイレと聞きましたが、字面だけではいったいどんな内容なのか、よくわからないので春に見るのが楽しみです。隙間が少ないタイプとのこと、良いですね他のトイレにもどんどん採用してください。トイレ改装以外にも、ウォーターサーバーなどが置かれるなど、ちょこちょこ良い変化があるとのことで、更なる大学施設の改善に期待を寄せています。
今回は随分と語ってしまい申し訳ございません、次からは京都の話に戻ります。ところでウォーターサーバー置いたなら学校グッズで無印良品の水入れボトルのようなもの作っても可愛いんじゃないかな!