先日、かつての同級生と飲みに行った。
彼女とは先月の二十歳式で再会し、その後の同窓会にも参加した。彼女と私では出身小学校が別だが、中学の2年と3年で同じクラスになり親しくなった。彼女はクラス委員を務めるなど存在感のある人だが、どこか飄々としていてちょっと変わった人という印象だった。時々真面目な顔で大して面白くもない駄洒落でその場にいた全員の顔を歪めさせたり、静かに考え事をしていると思いきや前の席の人の寝癖を眺めているだけであったり、どこか他の人とは違う空気を持っていた。ちなみに私は、彼女のその不可解な行動を目前にして不覚にも公衆の面前で大笑いしてしまい、それを機に私と彼女はしばしば話をするようになった。
中学を卒業した後はお互い別の高校・大学に進学していたため、彼女と会うのは約5年ぶりだった。久々に会っても相変わらず、にこにこ楽し気に話しながら突然とんちんかんなことを言うものだから、私も思わずクスクスとしてしまった。やはり彼女はおもしろい人だ。同窓会の2時間などあっという間に過ぎ去ってしまい、全く話し足りなかった。聞いたところ、彼女も私と同じ実家暮らしの大学であるということだったので、後日再び会う約束をしてその日は帰路についた。
地元にあるお手頃価格で有名なチェーンの居酒屋。そこそこ広いお店であったが、テーブルはほとんど埋まっておらず、私たちは一番奥のテーブル席に案内された。
酒があまり得意ではなく、自家製コーヒーミルクをすする私を横目に、彼女は初手からビッグサイズのハイボールを注文し、その後もレモンサワー、ハイボール、日本酒と続いた。樊噲にも引けをとらぬ彼女の飲みっぷりに、私は目玉が飛び出んばかりであった。噂に聞く酒豪とは彼女の事であったか。コーヒーミルクを飲みほした私はイチゴミルクのジョッキに持ち替えて一人感心していた。
大学の話、アルバイトの話、進路の話、最近見たアニメの話。思いつく限りのことを話した。アルコールが入っても彼女の話し方はあまり変わらない。いや、彼女の場合、普段から酒に酔ったような話し方だと形容するのが正しかったのかもしれない。話の内容もしっかりしているので問題はない。
腹も膨れてきた頃、彼女がぽつりとつぶやいた。
「まさかあなたとこうやって面と向かって飲む日が来るとは、想像もしていなかったな。連絡先も知らなかったし、中学卒業したらもう会わないと思っていた。」
「私もそう思っていたかも。」
中学卒業後に彼女と会いたくなかった訳ではない。ただ、当時の私は、同じ中学に通うという共通点が無くなった時点で生活のリズムも変わるだろうと思っていたし、お互い新しい友人もできるだろうし、新天地での生活をそれぞれ楽しめばいいのだと思っていた。
「でも、大人になってから懐かしい顔に会うのも中々おもしろいものだね。ほら、同窓会で三坂さんが金髪になってたでしょう?すごく似合っていたけど、ちょっと意外だったな。」
「確かに。私も髪染めてみようかなあ。」
「緑とか似合いそう。」
「さすがに髪を緑にする度胸はないよ。」
「あなたの黒髪ストレートは昔と同じだ。雰囲気も全然変わらないね。」
外見は変わっていないかもしれないが、自分の中では変わっているものもあるのだ。例えば、今はそんなこと思わないけれども、中学生の私は規則を無条件に守らなければならないと躍起になっていたし、自分の思ったことははっきり言うくせに自分が他人からどう見られているのかばかり気にして猫背気味に歩く。話したことのない人にはグループ活動とかきっかけがないと話しかけない、というのは今も同じか。普通か。
「同窓会ねえ。私も色んな人と話したなあ。仲のよかった人とか席が近かった人とかがほとんどだけど、中には中学時代に一言も話したことがない人もいた。それまで話したことがなかったのに、どうして今になって自然に会話が弾んだのか、自分でもちょっと不思議だったんだよね。多分、高校とか大学とかあるいは会社とか、中学なんかよりもずっと広くて知らない人ばかりの世界に入ってしまうと、中学時代に顔を見たことがあるというだけで何だか知っている人のような気がするんだろうなあと思う。同じ地元、同じ中学校という共通点もあるし。」
「あの頃は、中学校が世界の全てだと思っていたからね。あれだけ狭い空間の中に、仲のいい子も悪い子も、よく話す子も話さない子もいてさ。修学旅行のグループ分けとか大変だったな。」
「確かにね。当時はかなりの重要事項だったからね。誰と一緒だったか、今はほとんど覚えてないなあ。」
私の中学時代の記憶の中で、よい思い出はそれほど多く残っていない。人から「こんなことあったよね」と言われれば思い出せることも少なくないが、自分から思い出すのは苦い記憶、頭を掻きむしりたくなるほど恥ずかしい失敗の記憶ばかりだ。特に、彼女の名前「片山樹理奈〈かたやま・じゅりな〉」を初めて見たとき「〈かたやまき・りな〉」と勘違いして、心の中で「りなちゃん」と呼んでいたとは、口が裂けても言えない。