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12年前のクリスマスイブ、母から突然告げられた言葉。
「なんかね…、抽選に当たったみたいで、もう一泊できるようになったよ!」
この一言に驚きを隠せない私と姉は、荷物を預けるために、カウンターで黒いスーツの職員さんとお話している父を横目に、「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」と大絶叫した。姉とふたり、ぴょんぴょんと飛び跳ね、クリスマスの奇跡に、小さな体で喜びを表現したのだった。
その時、私たち家族は東京ディズニーリゾートに来ていた。当初1泊する予定だったところ、何らかの抽選に当たって2泊できるようになったというわけだ。当時、まだ小学3年生だった私はよく状況をつかめていなかったが、ただ、何かとんでもないラッキーが起こって、夢の国に滞在できる時間が24時間も伸びたということだけは、はっきりと分かった。
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何ヶ月も前に実行された父がホテルを予約するために練りに練った作戦…。それは、家の電話、父の携帯、母の携帯、姉の携帯から一斉にホテルに電話を掛けるというもの。私は、家の電話の前に張り付いた父に代わって、父の携帯からホテルに電話を掛ける大役を任された。父はこの日までに、各電話が何秒で相手側につながるのかということを調べ上げ、ホテルの予約電話が解禁される何秒前にボタンを押せばいいかということまで計算していた(今、冷静になって考えてみると、引いてしまうくらい一生懸命だったわけだが、当時はそうでもしないと予約が取れなかったのである)。
この時は、姉の携帯から掛けた電話がヒットした。電話がつながった瞬間、父が急いで飛んできて姉から携帯を譲り受け、そそくさと部屋の外に出ていった。
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1日伸びただけでも夢のようなのに、それ以外にもたくさんの初めての経験をさせてもらった、あのディズニー旅行。「させてもらった」「してもらった」という言葉が多くなってしまうのは、あの思い出が何年も前のことで、当時の私はまだ幼く、だんだんと思い出す記憶が薄れてしまっているからかもしれない。ただ、うすぼんやりとした記憶の中ではっきりと覚えているのは、常に笑いの絶えない幸せな旅だったということ。
父はガイドツアーを付けてくれた。ストレスなくアトラクションに乗れることも嬉しかったが、自分たちだけでは絶対に知り得ないディズニーの秘密(アトラクションやパーク内の装飾の意味や隠れミッキーなど)を1つ1つ教えてもらえることに特別感があって、とっても楽しかった。
また、この時、初めてディズニーシーに上陸した。ダッフィーのぬいぐるみを買ってもらい、それをおなかの前で大事に抱えながら、姉と共にパーク内を駆け巡った(当時ぬいぐるみを抱きしめて歩くのが流行っていたのである)。
あの時の私は、ねずみの王国の小さなお姫様に違いなかっただろう。目に入るものすべてが輝いて見えて、自分自身もキラキラと輝いているように思えた。
しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。たくさんのアトラクションに乗って、おいしいご飯を食べた、二度と味わえないような幸福な時も、あと少しで終わり迎えようとしている。舞浜駅から電車に乗って、だんだんと小さくなるシンデレラ城を見つめ、ついに見えなくなった瞬間、子どもながらに「あぁ、この世界に戻ってきちゃった…」と感じた。
混雑した電車の中、はぐれないようにぎゅっと握った母の手の温かさが、不思議と私の手にいつまでも残っていた。
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12年経った今でも、あの時のクリスマスの奇跡をふと思い出す。家族の間でもふとした瞬間に話題に挙げられ、そのお話をするたびに、みんなが朗らかな気持ちになるのだ。
ところが、最近になって驚きの事実が判明した。母から告げられたあの言葉。
「なんかね…、抽選に当たったみたいで、もう一泊できるようになったよ!」
これは、嘘だった。
何か別の会話をしているときに、母がうっかり口を滑らせた。どうやら、もともと2泊3日の旅行の予定だったが、当日になるまで子どもたちに知らせず、なおかつ抽選に当たったことにして、サプライズにしようと父と母で計画していたようだ。理由を聞いてみると、「その方があなたたちが喜ぶと思ったから」とポツリと呟いた。
どうして今まで気づかなかったんだろう。よくよく考えてみれば、脈絡のない嘘だったはずなのに。父はホテルの予約の電話をしたとき、部屋の外で何を話していたんだろう。母は帰りの電車の中で、何を思っていたのだろう。当時の私はまだ子どもで、ふたりが与えてくれた世界を得意げに闊歩する、世間知らずのお姫様だった。母に言わせてみれば、「そんな嘘を簡単に信じるくらい、素直でかわいかったんだよ…」。
たまに、家族でまたディズニー旅行に行きたいねと話す。でも、父は「もう1日動きまわるのは難しいな」と言う。母は「じゃあ、私はお父さんと一緒にゆっくりまわろうかな」と言う。
あの時パークの中を、手を引いて歩いてくれたふたりの背中は、ずいぶんと小さくなった。ふたりが年を取ったからなのか、私が大人になったからなのか。きっとその両方だと思う。
あの日のクリスマスの奇跡は、時を経て、父と母がついた優しい嘘によって、決して忘れることができない記憶となった。思い出すたびに分からなくなる記憶があって、また、新たに分かる記憶があって…、そういう循環の中で、12年前のクリスマスほど心温まる記憶は後にも先にもないように思う。
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皆さん、こんにちは!
ご挨拶が遅れてしまいました、ももこです。
このブログが2023年最後の投稿となります。早いものですね…。つい先日ブログ部に入ったように感じていました(笑)。
皆さんが健やかに新年を迎えられますよう祈っております!
本日もお付き合いいただきありがとうございました!それでは、また来年!