物語税
「こんにちは。いやこんばんはかな? どちらかは不明だけれど、おはようございますはちがうだろうな。全く君はいつも書き始めるのが遅い。夕方か夜が多いよね」
いつも通りさぁ書くかとスマホをいじっていると目の前に見知らぬ人物がいた。私はこの人の正体を知らない。しかし私宛の来訪者であることはなんとなく、分かっていた。いつからそこに。そして何様で。スーツを着込んだ兎に話しかける。
「ああ、またスマートフォンで書いてる。PC開くのが面倒だったのでしょう。何せあなたの机の上はいつも乱雑だからねぇ」
ひどいなぁ。言い返すことはできないけれど。机の上が散らかっているのは紛れもない事実であるし、その為にPCを開くのが億劫で、最近はもっぱらスマホで投稿しているのも事実であるからだ。
「いやまあ、文章の質が変わらなければ私としてはPCのキーボードをカタカタ打ってもらっても、スマホのフリック入力で親指を忙しくしていてもどちらでも良いのですけれど。皆さんもそう思ってますでしょう」
うさぎは、やれやれとでも言いたげな表情をした。私はうさぎの表情に詳しくないが、絶対そのような顔をしている。私には分かる。
「あ、今途中でメモを閉じて他のアプリ開いたでしょう。いつもながら集中力が無いですね」
なんで分かるんだそんなこと。もう500字以上書いているんだ。ちょっと休憩しても良いだろう。
「ま、あなたがメモ開いて一度も閉じずに書くときなんて、だいたい〆切間際に焦ってるときくらいなので、今更あまり気にしませんけど」
全てバレているのである。
「それは兎も角、うさぎだけに。あなたから物語税を徴収したく、私は訪れたわけでございます。あなたが自由に書き散らした物語、ここらでちゃんと整理してもらいますよ。まさに年貢の納め時って奴ですね」
物語税?そんなもの聞いたことないが?
「初めて知ったという顔をしてますね。とぼけても無駄なのですけれど。仕方がないですね説明しましょう」
うさぎはそう断りを入れると、どこからかホワイトボードを引っ張って来た。
「物語とは通常、ある世界の一片を切り取ったものだと考えられています。つまり、物語を書いた時点で、一つの世界が生まれているのです。シリーズものでしたら、その世界の続きや別視点を切り取っていることになりますし、作者が同じ世界線であると明言していれば、その作品の全ては一つの世界となります。しかしそのどちらでもなければ、物語は一つ生まれるごとに、一つの世界の誕生を共にしており、物語ごとに世界が生まれていることになります」
なるほど。理屈は分かった。一つの物語につき一つの世界。単純で分かりやすい。
「で、その世界を生んだ分の管理費、維持費に税がかかるんですけれど」
そこですよ。なんですか税って。誰に納めるんですか?
「勿論その世界の住民でございます。あなたの手によってぽんぽこ生み出された世界は、あなたの手を離れて回っているにせよ、あなたなしでは生きられません。あなたからの税が必要になります」
ええ、そんな。税がかかると知っていれば、こんなにぽこぽこ話を生み出したりしなかったのに!
「あなたは月に二回ペースで世界を生み出していたものですから大変ですよ。しかも共通の世界線では無く単独で。ショートショートも考えものですね」
月に二回。確かにこのブログのシステムならそういうことになるが、それにしたって。
「それでですね。あなたが物語形式にして新しく世界を生んだ記事を確認してみましたが、その数全31話でございます」
31話も書いたのか!?客観的に眺めるとなかなかのものでもあるし、31回分、自分の近況というブログ本来の目的から外れて、好き勝手していたのかと思うと、怒られるのが怖くもある。
「なので、31世界分の税がかかるわけですが」
それは、おいくら万円なのでしょうか……。
「あなたにかかる税は、そうですね」
勿体ぶりますね。
「ずばり、責任ですね。世界を生んだ責任。勝手に生まれた側にもなってくださいよ。こちらは頼んでもないのに。春の夜の夢から生まれたこの世界たちの責任をとってくださいよね」
責任?そんなこと言われても。というか春の夜の夢ってもしかして。
「そうですね。この話の結末に嘘ですと書くことで、あなたはフィクションを書いても許されるのではないかと甘く考えて、物語を書き始めたのですね。これは現実と延長線上で、嘘ですと記載されているため、世界と数えるのはやめておきました」
なるほど。そういえばそうだったような。
「次に気がついたら球体人形になっていたあなたから、税が発生してますね。現実の延長線でホラーにすることでぎりぎり許されると思ったのでしょうか」
図星ですね。
「荒野からのラジオ放送も届いています」
JLDchannelのことか。彼はタフだから生きてるとは思うけど、なかなか大変そうだよね。でも元気が出るからまた聞きたいな。
「何年後から閉鎖され独立都市国家となった東京の話だって」
あれよく怒られなかったよな。でも時勢を面白おかしく茶化してしまいたくなる気もあるし、東京という都市はあまりにも物語との馴染みが良すぎる。恋物語としても、SFとしても。
「美味しいお昼が食べたいお嬢様のお話もありましたね」
あー。あの油麺の食べ方、本当に美味しいんですよ。お嬢様もお気に入りのようで良かったですよね。世場さんと仲良くしてくれてるといいんだが。
「今年の夏を嘆く後輩と先輩なんかも」
そうですね、やはり夏という概念は美しいって話ですね。あの温度と湿度が鬱陶しくて、けれども物語としては良いんですよね。現実じゃあ懲り懲りだけど。
「夏子さんと秋子さんのお話も書かれてましたね」
やはり夏という概念が好きなんでしょうね。春も冬も秋も全部好きですけど。今年は冬子姉様が、しんしんと猛威を奮っておりますねぇ。
「PCの中に住んでいる電脳世界の少女は?」
ネッツはいいですよね。きっと頼りない彼とまだまだ一緒に遊んでいると思います。
「〇〇の秋、とか」
あー、その話はやめよう。結局ヒューエネって何って、テレビで説明していたでしょう?
「おいしいものが大好きな森の仲間たちの話とか」
そうですね。かれらはたのしく暮らしているんじゃないでしょうか。この話もやめましょうね。
「ハロウィンを楽しみたい子たちの話は?」
そうですねぇ、今年もまだ縮小しちゃったので、来年は人間たちに混ざって楽しんでくれるんじゃないでしょうかね。題名が好みです。
「特別な朝食とか」
……そうですね。美味しい朝ごはんは大切ですよね。実はこれブログに載せるのが初めてではなくて、他の企画で描いたものだったんですよね。お気に入りだったので再掲しました。
「特別でもないクリスマスとか」
クリスマスなんてね、特別なことが起こらない方が珍しいのでね。彼は元気にやってると思いますよ。
「春の七草の話は?」
春の七草、みんなチャーミングに見えたら良いなと思っています。挫けずに毎年頑張ってほしいです。
「部屋の中のロボット執事の話とか」
エリックさんね。実はネッツのPCを使ってる男の子とエリックさんが世話してる女の子は姉弟という設定があります。でも世界観が違うから税は別?駄目ですか。
「雛祭りの物語はどうでしょう」
個人的に気に入ってはいるんですけど、私のあの記事以降、前のサイトが使えなくなったの、結構気にしてます。やはり長年のものをてきとうにいじってはいけませんね。愛情はあるんですけど……今年は出そうかどうしようか。
「エイプリルフールの話もしまたね」
4月1日の彼らは結局どうなったのだろうか。どこまでが本当で嘘だったのか。これは彼らしか分からないんですね。
「自問自答の繰り返しは?」
これは就活に行き詰まった自分が反映されていて、創作として楽しむレベルに切り離すことが未だに難儀するんですが、ちゃんと自分に向き合おうとしたのは良いことだと思います。私の行く先にどうか幸運を。
「雨の日の喫茶店の話は?」
かわいらしい話になりましたよね。マスターも客である私も、きっと今もコーヒーブレイクを楽しんでいると思います。雨の日の喫茶店のしっとりとした雰囲気と珈琲の香りってなんでこんなに良いのだろう。
「ある魔法の話とか」
力作ですね。いやどの話も頑張ってるんですけど、推理小説が好きな人間の腕の見せどころって感じの話でした。なかなか頑張れたと思います。魔法って良いですよね。
「浴槽の住人は?」
しっとりとした話になりましたね。短命と長命の埋まらない差は愛おしいものです。美しい話になりました。彼女たちもなんとかやってると思いますね。
「七夕に想いを馳せたり」
織姫と彦星を結ぶカササギに想いを馳せたりしたり。彼女の複雑な心境は昇華されたのでしょうか。なんとも。
「おまつりの話とか」
おまつり好きなんですよね。雰囲気が。ええ。現世と幻世の淡い、人も妖もよいよい。一瞬だからこそ記憶に残っているのは全部終わったあとの話。
「夏をもたらす魔女とか」
やはり夏が好きなんですね。暑いだけなのに不思議ですね。いつか季節が無くなると聞く度に危機感を覚えてしまうのは、面倒な四季が彼も私も好きだからでしょうね。
「星の旅人の問いかけもありました」
地球の外にいる存在が我々を慈愛を持って眺めていてくれたら、とても素晴らしいことだと思いませんか。スケールの大きい存在の愛が好きです。てんやわんやしてますが、今も優しく眺めてくれていると助かります。
「月に還る話は中秋の名月に捧げて」
月とか星とか、好きなんでしょうね。彼女は今もちょくちょく月に帰ったりしながらも、地球で彼と仲良くしています。
「西部劇もやってみたりして」
いいですよね。ダイナーにガンナー。ちょうどそういった漫画を読んだばかりのときで、影響を受けまくってますね。彼女は良いガンナーになりますわ。
「妙に掴みどころのない文章は?」
たまには良いでしょう。読みづらいけれど、読みやすいだけが良い文章じゃない。雰囲気で酔える文はなかなか高級な味がして好きです。
「12月24日の話とか」
クリスマスイブに警察沙汰(未遂)を起こすのがクセなんですかね。彼らは今も仲良くやってると思います。
「その年までのおやすみは」
純粋に年明けを祝えば良いものを天邪鬼で駄目ですね。彼が満足する年もきっと来ます。そのときは楽しんでほしいですね。
「冬の朝にランニングする話も」
まるで普通の話なんですけどね。つまらなかったらすみませんね。普通の日常の話なんでね。
「とまあ、このように長くなりましたが、あなたは数多の世界を生み出したわけで」
そりゃあ月に2回も書いてりゃね。それにしても多かったな。
「いや私はあなたの創作でないエッセイの体のブログも好きでしたがね、創作で新しい世界を節操なしに生んでいくのが好きでしたよ」
ありがとうございます。
「ということで、領収いたします。物語税。あなたが生み出した物語に責任を持ってください」
どう持てば良いか分からないけれど、とりあえずこの記事を書き上げるので、どうかな。
「そうですね、こうやって一言でも振り返るのは良いと思います。気にかけてもらった世界も喜ぶでしょう」
それは良かった。しかしなぜ今。
「おやおや、もうお終いも近いじゃないですか。せいぜいあと一回か二回なんですから、この場で物語を生むこともないでしょう。だから最後に、というわけで」
なるほど。
「この物語税の話もまあ、世界の一つであるので税がかかるわけですけれど」
……ややこしくなってきたぞ。これもかかるのか。
「ええ、もちろん。あなたの一人遊びに過ぎないですけれど、物語は物語なので」
そういうことになるのか。では私は登場人物だ。
「いかにも」
ああ、ではあれだ。きみ。そこのきみ。そう、この文章を読んでいるきみだ。すまないが、この物語税を払っておいてくれ。頼む。なに、読み終えてくれたらそれで満足なのだから。一人芝居を誰かに見せられるなんて、素敵なことだから、それで充分、ということで。いつもより長くなってしまったが、読んでくれてありがとう。キミの前にこの形で登場す?のはもうあと一度、二度も無い。去り際は美しい方が良い。いつまでも執念深く残っていると醜くなってしまうのでね。ということで、
「まいどあり」

