こんばんは。

森見登美彦という方をご存じですか。小説家です。『夜は短し歩けよ乙女』などで有名な方です。いくつかの作品はアニメ化もしていますね。私が今絶賛どハマりしている作家さんです。

きっかけは読書家の母。「森見さんの本って読んだことある?」という一言に始まり、私は「中学の頃に一度だけ」と答えました。母曰はく、「『夜は短し歩けよ乙女』、面白かったよ」とのこと。そんなことを言われてしまうと、決まって天邪鬼になって「いつか読む」という曖昧な返答を送りがちな私ですが、今回は珍しく、それだけの理由で読まないという選択肢を取るのも何となくもったいないような気がしたので、とりあえず『走れメロス』から読んでみることにしました。太宰治のものではありません。森見さんが大宰さんの「メロス」を基にして作った、いわゆるパロディです。

ここに登場する大学生たちが驚くほど阿呆なのです。とにかく阿呆なのです。文体は一見、真面目で難しそうな、博識でちょっと古めかしいようなそんな様子なのに、中身を吟味してみれば「なにをやっとるんだ(笑)」と、家族のいるリビングであろうと満員電車のサラリーマンの前であろうと、思わず口元が緩んでしまうことせんかたなし。これを手始めとして『夜は短し歩けよ乙女』他多数の作品を読んでは時間と場所を問わず一人ニヤニヤしている私がいます。ああ、この大学生たちは何と阿呆でかわいらしい生き物なのでしょうか。

ただ一つ気になることがあります。冒頭で述べた「中学の頃に一度だけ」読んだあの本――『夜行』というのですがーーあれはこんなに愛すべき阿呆たちのお話ではなかった気がするのです。記憶にあるのは銅版画と夜景のような美しい雰囲気。はてさて私の記憶違いでしょうか。

兎にも角にも気になって気になって、大学の図書館に足を運べば『夜行』なる本が折よく目につきましたので、紺色のその本を手に取っていま一度読み返すことにしました。ちなみに、年に百冊超えの本を読み倒す学年一の読書家、の足元にも及ばないどこにでもいそうな気まぐれ中学生の私が手に取った時には、表紙に茶色がかったセミロングヘアで白いワンピースを着ているかわいらしい女の人のイラストが描いてあったような気がします。もちろん、うろ覚えです。気まぐれ中学生の私は、この神秘的な乙女に惹かれてこの本を手に取ったのではなかったでしょうか。もちろん、うろ覚えです。大学の図書館ではカバーを剥がしてしまっているのでしょう。闇夜に浮かぶ車窓のような四角が描かれた表紙です。

改めて読んでみると『夜行』は記憶の通り、ふっと消えてしまいそうな、夜景のような儚くも美しい空気をまとったお話でした。読んでいけばいくほど何となく、悲しいような、懐かしいような気分になります。電車の中で口角が上がるのを必死で抑えるどころか、涙を抑える必要がありそうです。

最近になって、美しい音楽(私にとっての美しい音楽はディズニーアニメのBGMなのですが)を聴くと涙が出そうになるようになってしまいましたが、なんだかそれに似ています。

私はきっと、生涯闇夜に浮かぶ車窓を眺めてはこのもの悲しさを思い出すのでしょう。