ごきげんよう、あやめでございます。
前回言い訳していたラジオごっこが出来上がりました。多分。裏飯屋らじおのお時間です。死したはずなのにまだ現世で大暴れするへんてこおばけがパーソナリティをつとめる、謎の深夜番組です。ディープで軽口の絶えない全九回のラジオ番組を覗く「ご覚悟」はできましたでしょうか。クーリングオフは適応外です。今回は第三回までのお届け。
第壱回
こんばんは。おばけに「おはよう」も「こんにちは」もありませんので、いつだってこんばんは。明けない夜より永い死後から顔をのぞかせる、当方、おばけでございます。この番組は本来砂あらしが舞ってザザザしか聞こえないはずのところ、魑魅魍魎の類、おばけがハイジャックして乗っ取って、放送倫理に則ってお送りしております。親愛なる生き物のみなさまへ。もうない肉声を以てお届けしてまいります。今夜は戸締りばっちりして、いきていることに感謝して、白湯とかのんでから寝ましょう。明朝には私の仲間になっているかもしれない、何も信じられない浮世をサバイブしてらっしゃるのだから。けけけ、とおばけらしく笑っておきます。どうも、裏飯屋らじお、はじまりました。へいらっしゃい。
このらじおは、5分間の限られた時間の中で、無限の死後を表現する、とかではなく、おばけの一方的なおすすめを語りつくすことを目的としております。裏飯屋は定食屋なのに、なぜかかかるBGMはジャズですし、メニューに珈琲があります。おばけの趣味です。かようにして来週から本格始動いたします。
おやすみなさい。良い夢を。お会計、六文です。
第弐回
こんばんは、当方、おばけであります。裏飯屋らじお、元気に開店です。へいらっしゃい。
5分しかないので急いで準備を整えましょう、最初のコーナー「おばけの気まぐれサラダ」。このコーナーでは、おばけが現世を浮遊して見つけてきた美味いたべものをご紹介いたします。裏飯屋なので。
今回ご紹介するのは、アフォガートです。珈琲大好きおばけとしてやらせていただいております私でありますが、この甘味はなかなか素晴らしいものでありました。ないはずの味蕾がうなりました。未来もありません。ハハハ。 ただ、コレ、イタリア語で「溺れた」を意味する「affogato」に由来するとか。「溺」、というのはいやな言葉ですね。私の死因です。もう溺れまい、と空を浮いているのに、甘くて苦くておいしいうちにいやなことを思い出させるテクニカルな甘味です。だいたい、溺れているうちは「しあわせ」になぞ、なれやしません。しあわせは、己でつかみ取らないと手からこぼれ落ちていく、であるから群雄割拠、喧喧囂囂、侃侃諤諤、そうやって押し合いへし合いするデスゲームの会場名ですよ。以上、死者のワンポイントアドバイスでした。なんだか本筋からはそれました。失礼いたしました。 そして今回はここまでのようです。残念。
おやすみなさい。良い夢を。お会計、六文です。
第参回
こんばんは、今週の裏飯屋らじおのお時間です。へいらっしゃい。
生き物のみなさまごきげんよう、良いわけありません、当方ご機嫌斜めのおばけです。花粉症に罹患しました。あるはずのない免疫が、要らないはずの免疫反応を示して、人間同様花粉症に悩まされております。おかげでQOL、クオリティ・オブ・ライフではなく、死んでるのでクオリティ・オブ・デス、略してQOD、が、だだ下がりであります。最悪です。死ぬことより悪いことって存在するのですね。イライラは世界を滅ぼす。今晩の私はきっと、サイバー攻撃を引き起こす自然災害です。雷が鳴ってもおなかまるだしで寝る現代っ子にはわからないでしょうがね!
この調子と勢いを利用して参りましょう、質量保存の法則。本日の生定食のコーナーです。このコーナーはおばけが自ら出向いて仕入れ、もとい、観察した、おもしろ素材を活かした定食です。ごはんとお麩の味噌汁とお漬物は固定です。さっそく。
●●●(空白、息を吸う)
甲か、乙か。 この違いは遥かな違いである。混同してはならないし、逆転させてはもっといけない。みずみずしさ、色の鮮やかさ、古い葉の量、虫の有無。これら外観してわかるだけの事をできるだけ多く情報収集、そして判断する。このようにして甲乙をつける。
「298円です」レジでスキャナーに通して、お姉さんが値段を告げた。「甲」のキャベツにすることに決意して、購入契約の段に移行している私の手持ちの小銭は298円ぴったりをつくりだすことができない。キリ良くお釣りを貰うために小さな数的演算装置を動かす。5円のおつりをもらうには…?(処理中・悠久の間)303円か。いやしかし、1円玉が2枚しかない。これじゃうまくいかない…??ここは最終奥義を繰り出す場面であろうか。決意。 「クレジットカードで」
●●●(BGM)
電車に乗って、休日を満喫してきた人々に邂逅することになった。大きなショッピングバッグ。ナイロン生地の蛍光色で彩られたアウトドアウェア。パンパンのリュックサック。二人組の多いこと。生前ならこんな光景を目にしただけで、なぜかこちらまで「どっ」と疲れて、それから言い得ない「疎外感」を感じて、早く終点が来るのを待ったものである。でも今なら、オヤ、愛すべきニンゲンの群れがやってきたな、と思えるはずである。こちらは昼間に化けてでているマヌケなおばけなので、ニンゲンを対象化してまなざせるはずである。イヤ、子供や女性が発するあの甲高い興奮の悲鳴は、未だ慣れないけれど。
ちょん、と座席に座って、スマホをいじくるフリをして乗車時間を幽体離脱して過ごそうか、と思った矢先、隣に座った女性が船を漕ぎ始めた。こくり、こくり、と頭を手すりにぶつけるのではなかろうかという具合に。なんだかこれだって幽体離脱みたいだな、と思っていたら逆どなりの男性も私の撫で肩にもたれかかってきた。完全に脱力して、私の頼りなくてつまらない身体だけを頼りに座っている。そのうち女性もこちらに向かってこくこくし始めた。この場合、私は頑として「スマホいじり」を辞めない方が人間らしいだろうか。それとも両隣に誘発されて私だって寝てしまった方がハートフルアニマル動画みたいなことになって良いのだろうか。 両隣にプレスされて身動き取れず、かと言ってここで幽体離脱してお隣さんと幽霊の時空で鉢合わせするのも非常に気まずい思いをするだろうとおもって、ジ…としていたら、ファストフードの強烈な香りが駆け込み乗車してきた。とてつもなく大きなdBを有したまま会話をするあそこの女子高生軍団が手に持っている茶色の紙袋が怪しい。酸化した油の香り。熱が急速に冷める香り。それなら幽体離脱時の香りも、あのしなしなポテトと同じ、ジャンキーな香りがするのかもしれない。こんな現実逃避も空しく、肩が重たくなってきた。このまま私も空しくなってやろうか…
「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、」
甲乙つけ難い思いでいたら、上記のアナウンスがあって、まもなくして終点についた。寝ていたはずの両隣の方々の方がサッサと下車していった。
●●●(BGM)
ハイ。いかがでしたか。定食なのでボリュームがありますね。そしてまんまと放送時間をオーバーしました。おばけなので許してください。あるいは全部夢です。忘れなさい。
おやすみなさい。良い夢を。お会計、六文です。

