12月はうれしい。12月の街を歩く人々の足には小さな羽がついていて、いつもよりふわり、ふわりと歩けるようになっている。街はあかるい。木々は光の花を咲かせている。
「あっ、イルミネーション!」
私が目を輝かせながらきらめく木々に駆け寄ると、横にいた恋人は、
「男性の目には、イルミネーションがうまく見えないんだよね」
と言った。
「なんで?」
「目の構造の違いらしいよ。女性はイルミネーションを見て、『わぁ〜!綺麗〜!』と感じるらしいけど、男性には、ただ木に取り付けられた小さい電球が光っているようにしか見えない」
「確かに、イルミネーションのこと、『ただの電球やん』って言ってる男子いたなぁ」
「でしょう?」
12月はうれしい、は訂正。男の人の目には、街のキラキラは見えない。
「思い出した話があるや。いま、授業で建礼門院右京大夫集を読んでるって言ったでしょ。右京大夫って、初めて星の歌を詠んだ歌人だって言われてるんだよ」
「へえ〜、そうなんだ」
「そう。こんな歌。《月こそをながめなれしか星の夜の深きあはれをこよひ知りぬる》」
「なんだか普通の歌に感じるけど」
「でもこれが星を詠んだ初めての歌って言われてる。当時はこれが新鮮だったんだよ」
「へぇー」
「それでさ、鎌倉時代に右京大夫が詠むまで星の歌が詠まれなかったのって、たぶん、今まで男性が詠んだ歌が多く世に出ていたからじゃないかな」
「というと?」
「研究者の間では、これまで星の歌が詠まれなかった理由は、『星は人の魂が天に昇ったものだと考えられていて、美的なものではなかったから』って言われてる。でも、別にイルミネーションだって、それ自体は木に縛り付けられた電球で美的なものじゃないけど、美しくみえるじゃん」
「そうだね」
「だから、昔の人たちは星を見て、あれは人の魂だから美しくないんだ、と感じていたというよりは、そもそも歌を詠むような男性歌人たちにとって、星は美しく見えなかったんだよ」
「なるほどね。それもあるかもしれない」
「でしょう?」
話が終わって、空を見上げる。星は見えない。前を向けば、ネオンに、イルミネーションに、たくさんの光が目に入ってくるけれど、都会の空は、その光を全て吸収したかのような漆黒。
「現代短歌も、星の歌が少ないかもしれないね」
彼が言う。
「たしかに、満天の星空を見たという経験自体、現代においては非日常だもんね」
「そう、田舎でもあんまり見えない」
こんな時、都会でしか見えない星の歌を詠んだら、人気のない山の頂上で見た星空の歌を詠んだら、新鮮なのかもしれない。
「じゃあ、せっかくだからいま、星の歌を詠もう。星そのものの美しさじゃなくて、星が題ならなんでもいいよ」
「分かった。何分くれる?」
「1時間」
2人、無言で短歌を考えながら家まで帰る。
こうしてできた、星の歌。
私《ここそこに光はあるのに星だけは見えない東京 うれしくない街》
彼《口述をやめるな星よまたたいて消えゆく朝は炭の火に散る》

